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第拾弐輪 ホワイトアウト
2008-09-14 Sun 22:50
しくたんせ ますりか

さっきから何度もその言葉を繰り返し、頭を悩ませている。
一体何のまじないだろう。 ユミにはとんと検討がつかなかった。
もっぱらこの人が考える事など他の誰であっても理解に苦しむだろうけど・・・。
そんな事を考えながらユミはジルの様子をただ見守っていた。
「何をしてるんですか?」と聞きたいところだが、おそらく今の彼には他人の声は届かない・・・だろう。
ユミにはなんとなくそんな気がしていた。

「うーん」
ジルが唸り声を上げながらうろうろしている。
しばらく歩いていると突然動きを止め頭上を見上げる。
そんな一連の動作を何度も繰り返していた。
今ユミ達がいる場所は家と家の間。
そんなに広い場所ではないが、道幅はタルタルで十歩くらいの距離がある。
一方は大通りへと連なる道。もう一方は大きな壁が立ち塞がり完全に道を塞いでいる。
その壁から十歩程後退りをして頭上を見上げる。そこには両家屋の二階にあたる部分からロープらしきものが渡されており、そこに複数の洗濯物がかけられていた。
一定の幅を保って一、二、三、四、五枚の純白の服がかかる。
その同じ組のロープが同じ高さで横ばいにさらに九本はられていた。
まるで整列した兵士のように寸分のくるいもなく並んでいる。
ジルの奇妙な行動とこの洗濯物の配置に、ユミは何か意味がある事に気が付いていた
これは何かのトラップなんだろうか。あるいはギミックか・・・。
いづれにせよユミにわかるのはそこまでだ。
その先はさっきから一人頭を悩ますジルのみぞ知る。
「よし、たぶんここだ」
ジルが一枚の洗濯物を見上げながら言う。
そして首をそのままにユミを呼びつけた。
「ユミ」
「あ、え、はぃ?」
ジルが不意に呼んだのでユミは変に焦ってしまった。 一人であたふたしてしまう。
もしかしたらもしかするかもしれないから下がってて
(もしかしたらもしかするかも?)
なんのことやら。ユミは理解するより前に体を動かしていた。
ジルの「もしかしたら」は何だかものすごく嫌な予感がするから。
ユミはジルの傍から離れる途中ふと思った。
(そういえば・・ジルさんはいつから私の事を名前で呼ぶようになったんだろう)
そんな事を思いながらユミはジルが立っている位置より二十歩程離れ、ジッと様子を伺った。
(まぁ、悪い人じゃなさそうだからいいけど・・)
本人に尋ねた所で答えなど返ってこないだろう。ユミはあっさり自己完結で終わらせることにした。

ユミが様子を伺っている先でジルがゆっくり目を閉じた。
胸の前に両手で印を組み始める。まるで魔道士が魔法を唱えるような形だ。
そして唇を微かに動かし何やら唱えてるように見える。
本当に魔法?
そう思っているとジルの足元に魔法陣が現れた。
大きく円を描きその輪郭をたどるようにして文字が現れる。あたりには緩やかな風が流れだした。
ジルの作り出した魔法陣は初め小さな光を放っていたが、ジルが詠昌を進めるにつれて強い光を放っていった。
そして詠昌が完成する。 ジルが目を見開き両の手を広げた。
拡がれ翼よ!(レビテト)
聞いた事のない魔法だった。 少なからずユミが通う国校では習った事はない。
初見の魔法にユミは心奪われた。

ジルが放った魔法が形となって現れる。
淡い白色の霧がジルの足元へと集結し、時計回りに渦を巻くようにして回転を始めた。
次第に集結する霧は濃度を増し、回転の速度を速める。
その動作と同時にユミは自分の視点が徐々に上がっていくのに気が付いた。
「すごい・・・」
ユミが視線を送っている先で、なんと、ジルが宙に浮いている
ジルの足が地から離れると、渦を巻いていた霧が形を変えた。
左右に対照となる形をなして広がる。それはやがて鳥の翼を模した形へと変化していった。
まるで翼の生えた台座だ。
ジルはまさにその台座の上に乗っている。
翼へと姿を変えた霧は更に濃度を増し、やがて輪郭あるものへと変わった。
光で作られた翼。そう呼ぶのが相応しいだろう。
光の翼に乗ったジルは徐々に高度を上げ一枚の洗濯物へと近づいていった。
そしておもむろに自分のローブの胸元あたりをまさぐると、小さな棒のような物を取り出した。
(なんだろう?)
ユミが地上から見上げながら思っているとジルがとんでもない行動に出た。
片手に持った棒らしきもので洗濯物を滅多打ちにしている。
「な、なにやってるんですか!」
ユミは思わず叫んでしまった。
普段家事をしている彼女にとってその行為は見過ごせるものではない。
しかしジルは相変わらずなマイペースだ。
振り向きもせず黙々と滅多打ちを続けている。
よく見るとその滅多打ちにしている部分に何やら黒い染みのようなものが浮かんでいる。
あれはペンだ。ユミは心の中で確信した。
ジルがペンを片手に純白の洗濯物に落書きをしている
「ジルさん!聞こえてますか!?」
いつの間にかユミはジルのすぐ側まで歩み寄っていた。
すぐ真下に近い場所まできて、ジルがようやくユミの声に反応をしめした。
「ん?いいからさがってなって」
洗濯物に落書きをしている手とは反対の手でシッシッとユミをあしらった。
ユミは致し方なく後退りする。
ユミがまた元の位置に戻るか否の時にジルの落書きは完成したようだ。
ジルがその場からゆっくり離れていく。
デタラメに書いていたように見えた落書き。それはよく見ると何かの魔法陣の一部のように見えた。ちょうど円形のケーキを一人分に切り取ったような形。
読めない文字を取り巻くように様々な模様が描かれている。
しばらく見つめているとその魔法陣は微かに光を放ち始めた。
魔法陣に目を奪われていると、いつの間にかジルが別の場所に移動していた。
そしてまた先程と同じ動作を繰り返している。
今度はユミは口を挟まない事にした。何となくだが今ジルはこの場所の鍵を開けようとしているのだ。
何処に繋がるのかもどうなるのかも全く分からないけれど・・・

そんな事を考えながらユミはジルが次々に描き出していく魔法陣の数を数えていた。

二つ三つ四つと順調に数を重ねていく。
時折手を止めて首をひねっている場面を何度か目にした。あれはおそらく思い出しているのだろう。
(そんなに頻繁にくるわけじゃないのかな)
ユミが詮索している合間にも魔法陣は次々に完成していく。

八つ目。そこまで完成した時だった。
ユミ達が向いている大きな壁側とは反対の方向から叫び声が上がった。
いたぞ!こっちだ!
それは先程ユミ達を追っていたガルカの声だ。
(見つかった!)
ユミはその声の主を見つけるより先にジルの方へと走り込んでいた。
「ジルさん急いでください!」
ユミは翼の台座の下で叫んだ。
ジルはもう九つ目を書き始めていた。
「コレが最後・・」
そう言いながら手を進める。
ユミは後ろを振り返った。物凄い形相のガルカ達が迫ってくる。
この狭い通路に大量のガルカ達。もうそれだけで恐ろしい威圧だ。
ユミは迫りくる巨漢に成す術もなくただ怯えた。
「よし!出来た!」
頭上で声が上がる。ジルが九つ目、最後の魔法陣を完成させていた
そして完成と同時に翼の台座から飛び降りるとユミの手をつかんで壁の方へと走りこんだ。
主を失った台座は霧のように消える。
壁に到達したジルは壁に背を向けピタリと張り付いて見せた。そして横目でユミに同じ格好をするよう促した。
ユミも慌てて同じ格好をした。
それを見届けたジルが落ち着いた口調で言う。
いいか?ここから先は特殊な世界だ
「え・・?」
ジルは目の前から迫ってくるガルカ達など眼中にない。
「絶対に俺から離れるな」
穏やかな声だ。ユミはその言葉を聞いて気持ちを落ち着けた。
「はい」
ユミが答えた瞬間。
目の前から迫りくるガルカ達の動きが止まった。
彼らが意図して止まっているわけではない。時間そのものがが止まった。音も臭いもなくなっている
ユミがその光景に目を奪われていると突然目の前を白いものが遮った。
頭上にかけられていた洗濯物が、一斉に落下した。全て同一のタイミングで綺麗に地に落ちたのだ。
しかしよくみると頭上にまだ残っている洗濯物がある。
ジルが魔法陣を描いたものだ。
それらはロープから離れ宙に浮かぶと、壁の方へと魔法陣を向け終結を始めた。
円を描くように並ぶ。やがて全ての魔法陣が繋がった。完全な円の完成だ。
魔法陣だけがその場に残り、洗濯物は地へ落ちる。
そしてユミ達の方へと魔法陣が近づいてきた。
ユミは少し不安になって横目でジルを見た。
だがジルに動じる様子はない。それどころか目を閉じている。
(大丈夫)
そう心に唱えながらユミも目を閉じた。
魔法陣がさらに近づく。
体が魔法陣に包まれていくのがわかる。そして何処からともなく風が吹き荒れた。
音のしない空間に徐々に音が生まれ、まるで風の中を音速で走り抜けるような轟音と化した。
耳がどうかなりそうだ。
ユミは自分の両手で耳を塞ごうとした。
しかし・・・
「え・・・」
ユミは自分の感覚を疑った。
自分の手が、動かない。それどころか体全体が動かない。
(どうして!?)
目を開けたがユミに見ることが許された視界は唯一。顔の向きさえ変えることができない。
動かせない体はまるでなにかに捕らわれている様。いやこれは壁の中へ取り込まれようとしているんだ。
ユミは徐々に自分の体が壁の中に埋まって行くのを感じた。
ひんやり冷たい感触が体全体を包み込む。もうユミに成す術はなかった。
「うぅ・・・」
喉の奥で声にならないうめきがあがる。
やがてその声さえも飲み込んでユミは完全に壁の中に取り込まれてしまった。





ホワイトアウト
そう呼ぶのが相応しいだろう。
ユミが壁に取り込まれた先にたどり着いたのは何もない世界だった。
本当に何もない。真っ白な空間にたった自分だけ、ユミだけが存在していた
(どこ・・だろう、ここ)
後ろを振り返ってみる。しかしそこに拡がるのはやはり真っ白な世界。
「誰か・・・」
ユミは言葉を発してみた。その言霊は音として空間に放たれると同時に文字となって現れた。
ユミの口元から「誰か」という言葉を表す文字が浮かび上がる。
しかしそれはユミに読める文字ではない。この世界で「誰か」という単語を示すプログラムだ。
ユミは自分から放たれた読めない文字をしばらく眺めた。 何とも不思議な光景だ。
やがて「誰か」を示す文字は地へと落ち、真っ白な地面に吸い込まれるようにして消えた。
そしてまた何もない世界に戻った。
ユミはふと自分の足元を見た。 自分の影がない。
こんなに真っ白な世界なのに光は存在しないという事なのか。
いやあるいはココは本当に特殊な世界なのかもしれない。
(特殊?)
ユミがハッとした。
その言葉を以前ユミに残した人物。
ジルがいない。
「ジルさん!」
ユミは叫んだ。その言葉はまた音となり形と化した。
今度は先程より遠く離れた場所に落ちた。そして吸い込まれるようにして消える。
また何もない世界に戻った。
だが、今度は思わぬ反応がかえってきた。
「ジル」を表すプログラムが落ちた場所が波をうっている。まるで水面のようだ。
「ジル」が落ちた地点を中心に円形の波紋が広がってゆく。
やがて波紋がおさまると中心にぽっかりと大きな穴が空いた。 人が楽々と通り抜けてしまうくらいの大きさだ。
ユミがその中を覗こうと恐る恐る近寄ると穴の中から突如何かが現れた。
ユミは一瞬怯んだ。だが、それが人の手だとわかると急いで駆け寄った。
「ジルさん!大丈夫ですか?!」
そう、現れたのはジルの手だったのだ。
ユミと差して変わらない大きさの手、指のところどろこにインクがついている。これは先程「落書き」をした時についたものだろう。
ユミはジルの手を掴み一気に引き上げた。
元々大人になって大して大きさが変化しないタルタル族だ。女性のユミにでもジルは楽々と持ち上げる事が出来た。

ドスン!

勢いで飛んだユミとジルは地面に尻餅をついてしまった。
「いったぁ・・・」
ユミはお尻をさすりながら立ち上がった。

「いやぁ助かったぁ」
まだ倒れているジルが天を仰いで言う。
そもそもこの世界に天などあるのか謎だけど・・・。足元の地だって存在しているのかどうか分からない。確かに立っている感覚はあるけど、影がないのだ。ユミもジルにも。
「層を間違えた。ユミが呼んでくれなかったらどうなってた事か・・・ん?どうした?」
ユミがあまりにもジルの事を凝視しているので、ジルは疑問に思った。
ユミが視線をそのままにジルに言った。
影が・・・影がないんです
「あぁ」
ジルはひとつ頷くと上半身を起こして自分の体の下に視線を送った。
ここはヤツの世界だから
「ヤツ?」
間違ってもオヤツではない。ユミは何故か母の顔が頭に浮かんだ。
お母さんだったら「オヤツ?」って突っ込むだろうなぁ。そんな事を思いながら・・・。
「厳密に言うとヤツの影の世界だけどねぇ」
ジルがオカシな事を言っている。
「ヤツの影って?」
「まぁそのへんは、ごほ~んにーんとごた~いめーんした時に・・」
ユミが聞き返そうとする事を阻止するかのようにジルは話を進めた。
そして立ち上がると振り返り遥か彼方の方角を向いた。ここでは目印になるものが何もないからそういうしかない。
どの方向とも言えない方角を向いたジルはゆっくりと言った。

問題は、ここを無事に通り抜けられるかどうかだ

何もない世界。ただただ真っ白な世界。この先に一体なにがあるのだろうか。
ユミはジルが見つめる先をただただ不安な気持ちで見つめるほかなかった。
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第拾壱輪 擬態ガルカ
2008-08-22 Fri 22:27
どうしてこうなってしまったのか・・・。
もっと早くに引き返せばよかったとユミは独り言ちていた。
現在ユミが恐る恐る歩を進めているのは、つい先刻逃げてきたばかりのガルカの居住区だ。
ユミの前を歩くもう一人の人物。同じ種族タルタル、ジルがいる。
二人は寸分の隙間なくくっついて歩いていた。
なぜそんなに密着する必要があるのか。それは、こうしていないと怪しまれてしまうからだ
「(ジルさん、いつまでこうしてればいいんですか?)」
ユミがジルの耳元で囁いた。
「(ん・・・着くまで)」
(はぁ・・・)
聞くんじゃなかった。
ユミは深くため息をついた。
「(おい!動くなって)」
「(ご、ごめんなさい)」
この作戦を説明された時、絶対に歩く以外の行動をとるなと言われていた。
もっぱらあまり気が進むような作戦ではなかったが、他に方法がないと言われ致し方なく賛成してしまった。
よく考えればもっと他に良い案があったろうに・・・。
この作戦はその・・・あまり頭が良い感じではない。
ジルに説明された作戦はこうだ。
ジルが着ているローブを二人で被り、ガルカの子供に成りすます
思い返せば思い返すほど賛成してしまった自分を後悔してしまう。
見てくれは決してガルカと言えるものではない。
しかしジルの能力をフルに活用し、道中出会うガルカ自身に暗示をかける事によりそれらしく見せている…らしい。
ジルの熱のこもった解説を思い返しながらも、頭上にある紙で作ったガルカの顔が本物に見えるとは到底思えなかった。

そもそも何故二人がここにまた舞い戻る事になったのか…。
すべてはジルの正体を聞いたときから始まっていた


――――――――――――――――――


あれ? いってなかったっけ?

ジルが真顔で答えた。
「な・・・」
ユミはその返答にあんぐり口を開けてしまった。
ジルが髪をくしゃくしゃとかきながら言う。
「いや、わるい。あまりにどたばたしてたからさ」
「は、はぁ・・・」
確かにジルとユミが出会ってから怒涛の展開だった。
何を話して何を話していないかわからなくなるのも無理はない。

コホン。

ジルが間をとるように一つ咳払いをした。
「えーご紹介預かりましたわたくしぃ」
(預けてないし・・・)
突っ込みたい気持ちを抑えながらジルの演説につきあった。
「ジルライト・マジターと申します。ジルとよんでくれぇ」
「いや、それは知ってます・・・」
「む・・・」
(はぁ、これは真面目に付き合ってたらこっちが疲れちゃうな)
「えーっと・・・?」
ジルが真面目に困った顔をしている。
ユミがすかさず補正を加えた。
ジルさんは何をなさってる方なのですか?
改まった言い方をするほどの相手ではないが、あえてかしこまった言い方をすることでユミはジルに逃げ場のないよう仕掛けた。
「あぁ、お仕事ってやつね?」
それでもおちゃらけた口調は変わらない。
ユミはその次の言葉がでるまでじっと耐えた。
「えっとねぇ、ひじょーに解答に困るんだけど。・・・俺も同じかな?」
(同じ?)
また主語がない。じっとジルを細目で見つめる。
「モーグリと」
「モーグリ?」
「そ。俺も放浪の身ってことさ
「・・放浪・・・ですか」
なんだか結局逃げられた気がしてユミは悔しかった。
しかしそのあとに続く言葉はなく、もうこれ以上の追求は無駄だと悟った。
それなら・・・
ジルさんは何故バスに来られたんですか? 放浪の旅人なら定住してはいないんですよね?
ユミは質問の方向を変えた。
後者には「ここに住んでる」と言わせない意図が込められている。
そうでなくても、服装やバストゥーク国民なら誰しもが近づきたがらないガルカの居住区にいた事を考えれば、定住者ではないのは一目瞭然なわけだが。
「んー。鋭いねぃ」
流石にふざけた態度は消えたようだ。
唇を結び真面目な表情でユミを見つめている。そして観念したようにその口をゆっくり開いた。
「わかったよ。君には隠し事はできないみたいだ」
「お願いします」
ホッとユミは心の中でひとつ息を吐いた。
察しの通り俺はこの国の民じゃない。さっきも行ったけど留まる場所を持たない放浪者だ
「はい」
ユミが一つ相槌をうつ。
「俺がここに来たのは・・・その・・ある物を探しにね
「ある物?」
「あぁ、ある物さ・・だけどそれはなかったんだ
「ちょっと待ってください。ある物ってなんですか?」
このパターンは以前にもあった。このまま放置しておくと流されてしまう。
「まぁまぁそれはまた後で話すから、とりあえず続きを聞いておくれ」
「はぁ・・・」
ジルに宥められる形でユミは引き下がった。
「んで、俺はそれを作った主を訪ねようと思ったわけさ
「・・はい」
なんだか話が見えてこないが、ここは一つ我慢だ。
ユミはグッと心の奥に募る気持ちを抑えた。
「そいつは鉱山区に住んでてね・・・」
(鉱山区?)
ユミは何かが繋がったような気がした。そしてハッとする。
「あ!」
ユミが気付くのを待っていたかのようにジルは口の端を持ち上げて言った。
「そう、その主に会いに行く途中に君に跡をつけられたってことさ
「あぅぅ」
ユミは何だか恥ずかしい気分になった。
まさか自分の勘違いで起こした行為に繋がるとは思っていなかった。
ユミは両手で顔を覆って下を向いてしまった。
「まぁまぁ、この出会いにはきっと何か意味があるんだ。そんなに落ち込むなって」
ジルがそう言ってくれたので、ユミはなんとか顔を持ち上げることができた。
「で、話を戻すけど俺はこれからそいつに会いに行こうと思うんだ」
「え・・今からですか?」
もうすっかり日は沈み、皆が夕餉を楽しんでいる時間だ。
しかも向かうはあの鉱山区・・・そう考えただけユミは身がすくんでしまった。
ユミが数刻前に起こった出来事を思い返していると、ジルがとんでもないことを提案してきた。
「君も一緒にどうだぃ?」
「へ?」
(なんで?)頭の中にはクエスチョンマークが無数に浮かんだ。
だがそんなことはお構いなしにとジルは続ける。
「ある物がなんなのか知りたくないのか?」
「・・それは、知りたいですけど」
「何か問題でも?」
「いや・・だってあの場所にもう一度行くんですよね?」
「そうだよ」
ジルはあっさり答えた。
この人には恐怖心というものがないのだろうか?
ユミが頭の中で迷っているとジルが手をパタパタさせながら言ってきた。
「あぁ、ガルカか。大丈夫大丈夫、良い作戦があるから


――――――――――――――――――


その良い作戦がこの『ガルカの子供に成りすます作戦』。
(はぁ・・)
あまりのやるせなさにユミは再び深いため息をついてしまった。
するとジルが突然歩くのを止め、急停止をかけた。
どん!
(いったぁ・・・)
その勢いでユミはジルの後頭部に鼻をぶつけてしまった。
「(ど・・どうしたんですか?)」
ユミが鼻を摩りながらジルにヒソヒソ声で問うた。
「(し! やつらがいる)」
ユミの場所からは何も見ることができない。
前にはジルの頭。周りはローブで完全に塞がれている。
見えない「やつら」がなんなのかわからないまま、ユミはジルの次の言葉を待った。
「(いいか。絶対おかしな行動はとるなよ?)」
ジルが再度確認してくる。
ユミはそれに軽く相槌を打つことで答えた。
そして再び二人は歩き出す。

コツコツコツ・・・

十歩くらい歩くと誰かの話し声が聞こえてきた。
何を話しているかはわからない。
しかしそれはさらに歩を進める事で鮮明になっていった。

コツコツコツ・・・

「おい!まだ見つからぬか!」
怒鳴っている声が一つ。声のトーンからいって相当怒っているようだ。
おそらく先刻ジルが倒した大型のガルカだろう。
「もうここにはいない!いい加減あきらめろ!」
それに答える声が一つ。こちらも相当熱が上がっているようだ。
「ち・・やつら今度会ったらただじゃおかぬ」
(やつら・・きっと私たちの事だ)
今見つかったら・・きっと殺される。
そんな事を思いながらいよいよ彼らの横を通り抜ける所だった。
その時だ。
「おい!待て!」
心臓がひとつはねる。一つの声に呼び止められてしまった。
ジルがそれに合わせて体を横に向ける。
ユミも慌ててあわせる様に後ろへ回った。
「貴殿、どこのものだ?」
「・・・・・・」
その呼びかけにジルは何もこたえようとしない。
後からでは何も見えないのでわからないが、何かを念じているように見える。
ユミは自分の心臓の音がうるさくて気が気ではなかった。
しばらくするとジルが何も発していないのに、ガルカは一人会話を続けた。
「・・そうか、見つかるとよいな。行ってよいぞ」
そう言われてジルが歩き始めたのでユミもそれに続いた。

しばらく歩いたところでユミは声を潜めてジルに問うた。
「(何かしたんですか?)」
「(いやなにも?)」
これが暗示というやつなのだろうか?
少なくともユミにはこの擬態ガルカの声は聞こえなかった。
しかしあのガルカは確かにこの擬態ガルカと会話をしていた。
ユミは初めてジルの作戦はおちおち失敗ではなかったと思った。
が、それも束の間。しばらく行くとまたガルカの人だかりに遭遇する。
今度は少し数が多い。
ジルが慎重に人々の隙間をすり抜けていく。
「あっちのガルカは・・」とか「ヒュムどもは・・」とか「ヒュムに手なずけられた愚か者・・」とか、そんな罵声が聞こえてくる。
ここに住んでいる人々は相当恨みを募らせているようだ。
ここは一刻も早く退避したい場所だ。ユミはそう思いながら自然と歩くスピードを上げていた。
しかし、それがまずかった・・。
歩調を狂わせたユミの足は見事にジルの足を踏んだ。
「(おわっ!)」
ジルは声を押し殺してなんとか体制を持ち直そうとした。
しかし、無駄だった。
どーん!
努力空しく大転倒。二人は見事にローブからはみ出し、その姿をガルカ達の前に露にしていた。
「・・な!」
その場に居合わせたガルカ達が一斉にこちらを振り向く。
みるみるうちにガルカ達の表情が変わっていった。
そして一人が空に向かって吼えた。
「やつらだ!やつらがいたぞ!!」
「ちっ!」
ジルが咄嗟に起き上がるとユミの手をひいて叫んだ。
「走れ!!」
ユミはもう泣きそうだ。何がどうなったのかわからない。完全にパニック状態に陥っていた。
ジルの手を何とか離さない事だけで精一杯だった。
震える全身をなんとか起こすとやっと足を前に踏み出せた。
「にがさん!」
そこへ一人のガルカが襲い掛かる。大きな手を広げユミに迫った。
ジルがすかさず前に出る。
そして、片手をかざすと目を大きく見開いた。
「ぐあ・・」
ガルカがズシンという音を立てて地面に倒れた。
しかしまだ後手が迫ってくる。
ジルは振り返ると再びユミに叫んだ。
「ユミ!行くぞ走れ!」
ユミは走った。無我夢中で。道中何が起きたかなど覚えていない。
ただ前を走るジルの手を握り両足を精一杯動かす事で必死だった。


どれくらい走っただろう。
ジルが突然建物の影に隠れた。ユミもその後を追う。
「はぁ・・はぁ・・とりあえず・・大丈夫だろう・・」
息をきらしながらジルが言う。
ユミの手を離すと壁にもたれかけるように座り込んでしまった。
ユミもその場に座り込んだ。
「はぁ・・ご、ごめんなさい・・」
息も絶え絶え、自分のせいでこうなってしまった事をユミは悔やんだ。
その言葉にジルは手を上げて答えた。
「いや・・いいんだ・・おかげで予定より・・はやく着いたしね・・」
「・・え? 着いた・・?」
ジルは上げた片手で今入ってきた通りとは反対の方向を指差した。
暗くてよく見えないが、なにやら白いものが浮いている
「はぁ・・・ふぅ・・落ち着いた?」
ジルがユミに問う。
「あ・・はい」
呼吸もようやく整い出し二人は重い腰を上げた。
ジルが指差した方向へゆっくり歩き始める。
ここは家と家の間だろうか。狭くて月の光もあまり届かない。
それでも目を凝らせばなんとか道は見える。
地面にはあちこちに残骸が散らばり、ここがいかに廃れた場所なのかがわかる。
ふさわしい言葉を捜すならまさしく廃墟だろう。
残骸に目を奪われていると、いつのまにか目の前に大きな壁が現れた
首を90度近く曲げなければ天辺が見えない。
「行き止まり・・?」
ユミが独り言ちた。
「いや、そうじゃない」
ジルがそういうと徐に自分達のすぐ頭上を指差した。
ユミがそれにつられて後ずさりしながら視界を移動させる。
下を向いて歩いていたせいでまったく気付かなかった。遠くから見えた白いものはこれだったんだ。
家と家を結ぶ一本のロープ。それにかかる大量の服のようなもの。この廃墟には似つかわしくない純白・・・

洗濯・・物・・・?

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第拾輪 闇の影響
2008-08-11 Mon 23:26
(はぁ、今日も忙しいわ)
パタパタパタと足音を立て、慌ただしく歩いているのは蒸気の羊亭の主人ヒルダだ。
彼女は未亡人だ。早くに夫を亡くし、今では一人で店を切り盛りしている。その事を周りからは感心されていた。
しかし当の本人は毎日が戦争。
売り上げと在庫のチェック、さらに新メニューの開発と何から何まで自分でやっている。
他に従業員がいないわけではない。
しかし、彼女の人柄だろうか、他の人に自分のような思いをさせるくらいなら自分で背負ってしまった方が気が楽なようだ。
だから彼女は毎日一階と二階の行ったり来たりを繰り返している。
もう、何回目だろう。ヒルダは再び二階から一階へと降りていく所だった。
「いらっしゃいませ~」
どんなに忙しくても、お客様を迎える声だけは決して忘れない。
たった今入口から入ってきたのはヒルダにとって馴染み客だった。
「あら、オットさん。こんばんは」
カウンター越しに声をかけられた客が反応を示す。
「あ~ヒルダさん。相変わらず忙しそうだね」
オットと呼ばれたヒュームの男がニコニコとヒルダに片手を上げて答えた。
「ごめんなさいね~いつもちゃんとお話できなくて…」
「いやいや、ヒルダさんが頑張ってるのはみんな知ってるから大丈夫ですよ~」
悲しそうな顔をしたヒルダにオットが優しく声をかける。
そう言ってくれる事が唯一の救いだった。
オットが席に着くのを笑顔で見送ると、ヒルダはまたせっせと自分の業をこなす。
カウンターの脇に並べられた売り上げ表とにらめっこを始めた。
(う~ん、やっぱりこの時間は伸びが悪いわね)
眉間にシワがよる。
(あ・・・)
いけないいけない。ここはお客様から見える場所なんだから。
ヒルダは表情を元に戻すと売り上げ表越しに客の方に視線を向ける。
一人で飲んでいる者、家族連れで夕食を楽しんでいる者、はたまた隣の客に絡む陽気な者まで…
皆それぞれに楽しい一時を過ごしている。
ヒルダはそれを見て思わず笑みを浮かべた。
自分の事はどうでもいいのだ。この蒸気の羊亭にいらしてくれるお客様が楽しい一時を過ごして下さるなら…
ヒルダはそう思いながら唇をキュッと結んだ。
改めて気持ちを入れなおしたヒルダは売り上げ表を片手に今降りてきた階段をまた昇ろうと足を踏み出した。

その時だ。

ドンッという大きな音と共に店内が静寂につつまれた。
(なに?)
ヒルダは慌てて音の主を探す。
皆が視線を送っている先、机を両の手で思いっきり叩いていたのは馴染み客のユミだった。
対面して座っている男の客に牙を剥いている・・・ように見える。
(ユミちゃん・・?)
ヒルダは心配そうに彼女を見つめた。
ユミは普段母親と一緒にこの店によく来る客だった。
もうかれこれ十年以上の付き合いになるだろうか。ユミがまだ小さい時からヒルダは彼女と面識があった。
だからユミの性格もだいたいわかっている。彼女があんなにも怒っているのは尋常ではないのだ。
(大丈夫かしら?)
じっとユミを見つめていると、自分に視線が集まっているのがわかったようだ。
彼女は周りに謝罪しながら慌てて席についた。
その途中一瞬目があったような気がして、ユミはばつが悪そうな顔をしてした。
ヒルダは心配だったが、その後ユミが冷静さを取り戻したように見えたのでとりあえず安堵する。
一つ呼吸をすると、ヒルダはふとユミの前に座っている男に目を向ける。
(ユミちゃんが知り合いだっていってたけど・・・見かけない顔ね)
ヒルダはこの商売を始めて長い。馴染み客は勿論、たまにしかこない客の顔もだいたい覚えているつもりだ。
しかし彼は・・・
(・・・いけないいけない。詮索はよくないわね)
ヒルダは自分の考えを抑制した。ユミちゃんはしっかりした子だから大丈夫。そう自分に言い聞かせて。
売り上げ表を片手に、彼女はまたパタパタと二階へと連なる階段を昇っていった。



「さて・・・」
しばしの沈黙から第一声を発したのは馴染みのない客、ジルだった。
「ふぁい?」
それに答えるは、店員によって運ばれてきたカルボナーラを口に含んだユミ。
変なタイミングで話しかけられ少し困っていた。顔だけをジルに向けて眉をへの字に曲げている。
「そんな顔するなよ・・・」
ジルは少し申し訳ない気持ちになった。
ユミがそれを見て慌ててカルボナーラを水で流し込んだ。そしてジルに問う。
「ごめんなさい。なんですか?」
「話を再開しようか」
「あ、はい。」
ユミはジルに向き直る。それを見届けたジルが話を再開した。
「俺の能力の説明はとりあえず納得してもらえた?」
「はぁ、まぁとりあえずは・・・」
本当はまだ府に落ちない部分があったが、今はそれだけを気にしているわけにもいかないのだ。
謎の女・・・ ジルは彼女について明らかに何かを知っているような態度を見せた。だからそれを早く聞きたかった。
しかし次にジルが話を広げた先はそこではなかった。
「ちょっと二三聞きたい事があるんだけど」
「はい?」
奴等はいつからここにいる?
唐突な質問だった。
「奴等?」
もちろん何のことかわからず問いを問いで返したユミに、ジルは間髪いれず答える。
闇の使い
「!」
謎の女と同じ言葉を耳にして目を見開くユミ。
「何をそんなに驚く?」
しかしジルは相変わらず平然としている。
その態度を見てユミは気づいた。
あ、そうかこの人は心が読めるんだった。きっともういくつか覗かれた後なんだろう。
「あ、…でもいつからって?」
そうだ。彼は何故現れたかではなく明らかにその先をいく質問をしている。
「ふむぅ・・・」
ジルは顎に指をあてて考え込んでしまった。
「あの、ジルさん?」
神妙な面持ちで考え込むジルをユミが心配そうに覗き込む。
しばらくの間を置いてジルが重々しく口を開いた。
「君は先の大戦を知ってるか?」
「学校で多少は・・・」
少し昔の話、アルタナの民と獣人達が戦った戦争の話だ。
「まぁ大戦が起きた事実を知ってればいいんだけど、実は今回も同じなんだよね
ぇ」
「同じ・・・ですか」
何が?ジルの言葉には何かと主語がない。だから話を掴むのに少し遠回りをしなければいけない。
しかしこの状況にユミは何故か少しずつ慣れてきていた。少し待てばその答えは自ずと聞けるのだから。
「闇の使いだよ。やつらは以前にも現れてるんだ
「!?」
聞けた答えにユミはまたも驚愕した。
「そんな事、誰からも教わらなかったというような顔をしてるな」
コクコク。ユミは言葉にできない思いを首を縦に二度振ることで表現した。
「まぁ無理もないけどねぇ、表に流れてる情報なんてほとんどフェイクなんだからさ」
「隠蔽・・・って事ですか?」
「そゆこと」
まぁ例え発表してたところで奴等は普通の人には見えないから、事実を公表したところでなんら変わりはしないと思ったけど・・・
そこでジルは少し話を区切った。なんだろう・・・この言葉の意味にユミは少しひっかかるものを感じた。
「しかし、また再び姿を現したとなるとさすがに無視はできん」
そこまで話すとジルは水に手をのばした。カランカランと中の氷が音を立てて揺れる。
ジルが水を飲み終わるのを待って今度はユミが問うた。
「いつからいるのかはわからないですけど、アレは・・・闇の使いは一体何をしているんですか?」
世界の査定。ユミの頭にはあの謎の女の言葉が浮かんでいた。
「さぁね、さすがにそこまでは俺でもわからん。でも先の大戦は奴等が姿を現し
た事をきっかけに勃発したそうだ」
「トリガー・・・」
「おそらく間違いないだろうねぇ、それに呼応するように闇の魔族も続々と姿を現したわけだし」
「なるほど・・・ あ、そういえばさっき。」
今になってさっきの言葉のなんとなくひっかかるものがわかったような気がした。
「ん?」
「闇の使いは普通の人には見えないって…」
「あぁ、そうだよ」
「君も知ってるだろ?」
「はぁ・・・」
知っているというより、ただ漠然と誰も見えていないような気はしたけど・・・。
「見えないというより、見るための資格を持ち合わせていないと言った方が正しいかな」
「資格ですか」
「そぅ、あれは人が個々の力で見ているものではなく、他者の力添えがあって始めて見ることができる
「・・・」
なんの事かさっぱりだ。ユミには理解に苦しむ回答だった。
それを切り崩すようにジルが補足を加える。
「ほら、君の家から誰かいなくならなかったか?」
「!」
その意味に気がつくユミ。
「あれも獣人だからねぇ」
「ちょ、ちょっと待ってください。モーグリ族はどこの家庭にもいるじゃないですか?」
「たしかにたしかにぃ。だけど彼等にも我々のような種族が存在することはしってるか?」
「みんな一緒だと思ってました・・・」
「種族という程大袈裟なものでもないけどねぇ、何らかの理由で闇の影響を強く受けたごく少数派とそうではないものがいるそうだ」
「闇の影響・・・」
「それでその力が一部のアルタナの民に影響を及ぼしていると・・」
「はぁ・・・」
なんだか想像もしなかった世界だ。まさか身近にいたモグちゃんにそんな力があったなんて・・・。
そう思っているとユミに一つの疑問が浮かんだ。
「里帰り・・・どうしてモグちゃんは突然いなくなったんですか?」
「ん~・・・なんでだろうねぇ」
「・・・」
ユミは拍子抜けしてしまった。自分で投げかけた話題だ。
何故そこまで知っていて、いなくなった理由がわからない・・。
「俺も聞いただけの話だからさ。以前も奴等が現れた時一部のモーグリ達は突然姿を消したそうだ
「え・・・聞いたって誰にですか?」
「トラベラーモーグリ」
「へ?」
聞いたことのないモーグリだった。それも種族の違いなのだろうか。
「放浪のモーグリだよ」
「放浪って、モーグリ達は外に出るのを極端に嫌がるはずじゃ・・」
「なかには変わり者もいるって事さ」
なるほど。現に今ユミの目の前にいる人物は決して普通ではない。そう思うと安易に納得できた。
「その後の話は聞いたような聞いてないような・・なんか俺の中でも曖昧なのよねぇ」
ジルは首を傾げた。
「そう・・なんですか」
なんて適当な人なんだろう。ユミはつくづく思った。
「夜中に話してたんだけど、なんか気付いたら朝になっててモーグリがいなかったんだよねぇ・・」
(それって話の途中で寝ちゃったんじゃ・・・)
そう思ったがユミは言葉にはしなかった。なんとなく面倒になりそうな気がしたから。

刹那の沈黙の後、ジルは話を切り返した。
まぁそれはさて置き奴等が現れたということは、何かが起ころうとしているということだ。あるいはもっと早い段階から現れていたのなら・・・もう起きているのかもしれないが
闇の契約
ユミは謎の女が言っていた言葉を無意識につぶやいていた。
「ん?」
「あの女の人がそう言ってました。闇の契約が結ばれた、間もなくこの世界は闇へ還されるであろうって」
「うむ・・闇の契約ねぇ」
そこまで聞いてジルはまたも神妙な面持ちで考えこんでしまった。
「ジルさんはあの女の人の事、何か知ってるんですか?」
やっとの思いで聞くことができた。最もユミが気になっていた事だ。
しかしジルから返ってきた答えはその疑問を解決できるものではなかった。
「それなんだけど、本当に俺にもわからないんだ」
ジルが悲しそうな顔をして言う。
ユミはなんだか力が抜けてしまった。やっと・・やっと解決の糸口が見えたと思ったのに。
「だけど・・・」
その様子を憂いたのかジルが言葉を続けた。
その女の話、俺が知りたい事実と大きく関わっているような気がするんだ
ユミはふと思った。ジルに正体について・・・一体何者なんだろう。
何故私を助け、私の見たものに共感し、私に色んな事を教えてくれる。
その意図とは一体なんなのか。ユミは思い切ってジルに問うた。
「あの・・ジルさんは・・」
「なに?」
一体何者なんですか?
そう言われジルが少し動きを止めた。少し困った顔をして頭をポリポリとかく。
しばらくしてようやくその答えを返してきた。

あれ・・言ってなかったっけ?

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第玖輪 透かされし心
2008-06-22 Sun 23:19
「お待たせしました。こちらガルカンソーセージとイエローカレーです」
料理が盛られた皿が机の上に並べられた。ジルが頼んでいたメインディッシュだ。
店員が慣れた手つきで空いている皿を下げ「ごゆっくりどうぞ」と軽く頭を下げて去っていく。
ジルがそれに「どーも」と軽く答えていた。
そして何もなかったように、たった今運ばれてきた料理をつつき始める。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ユミは声を上げた。また危うく流されるところだった。
今度はそうさせまいと身を乗り出してジルの視界に入り込もうとした。
「ん?」
しかしジルは相変わらずのマイペースで、ユミの行動などまったく気にしていない。
ユミは少し苛立ちを覚え始めていた。
「どうしてですか?」
苛立ちで声が微かに震える。
「…セイレーン?」
それでもジルはしらをきるつもりなのか、話を元に戻そうとした。
少し上目遣いにユミを見つめている。その表情は悪戯な子供のよう・・・。
馬鹿にされたような気分になってユミはついに身の内を爆発させた。
「とぼけないでください!」
ドン!
爆発の勢いに任せて机を両の手で叩いていた。

シーン――

お決まりの展開だ。
店内の誰もが動きを止めてユミを見つめている。 店主も心配そうな顔をしてこちらの様子を窺っていた。
ユミは自分に視線が集まるのを感じる。
そしてハッとして我に返り頬を赤らめながら「ごめんなさい」と言って席についた。

店内の時が元に戻る。ざわつきが戻り飲食を再開する音が交じり合う。
一瞬うつむいたユミだったが、憤怒の気持ちはおさまらず顔を上げてジルにさらに突っ込んだ。
「どうして私の名前を知ってるんですか!」
声は静かだが目が本気だ。
その目をみてジルが少しだけ分が悪そうな顔をした。
しかしそれもつかの間、またすぐに手に持っていたフォークで料理をつっつき出
した。
「うーん」
その先でつついている物を食べるわけでもなく皿の上で遊ばせている。
クルクルクルとガルカンソーセージが踊る。
しばらくするとジルはその手を止め、急に真面目な顔をしてユミを見つめた。
全く視線を逸らさない。その瞳の奥からは完全に茶目っ気が消えていた。
しばしの間を置いてジルはようやくその口を開く。

「知ってるのは名前だけじゃない」

その声は今まで聞いたことのないトーンだった。
ユミは目を丸くした。
ジルは尚も続ける。
「君がどうして俺をつけてきたのかも、俺に何を聞きたがっているのかも分かっ
てる」
そこまで言うとフォークの先で遊ばせていたガルカンソーセージをプスっと刺した。
そしてそれを食べやすい大きさに切って、ゆっくり口の中へ運ぶ。
「…どうして…」
ユミは愕然とした。 まるで心をのぞかれているようだだ。
もしかしたら本当に恐れるべきはあのガルカではなくこの人だったのか…?
ユミは自身の中に浮かんだ疑惑に身震いをした。
「まぁ…」
まるでユミがそう悟るのをわかっていたかのように、ジルは声のトーンを元に戻
す。
「俺は何も隠すつもりはないから、とりあえず落ち着いて」
宥めるような声だった。
ユミは少なからず敵対する相手ではないことを感じた。
ふぅと一息つくと気持ちを落ち着けた。
それを見届けたジルは食べる事を止め、ゆっくりとした口調で全てを話し始めた。
「まず、君の名前を知ってる事だけど」
コクッ。 ユミが静かに頷く。
「俺にはちょっと特殊な能力があってね」
特殊な能力? ユミはいまいちピンとこなかった。
能力とは魔法とは違う類なのだろうか?
魔法とはこの地に存在する八つの大気の元素を、強めたり弱めたりすることで発生する力の事である。
しかしジルはおそらくユミの心を読んでいる。というより見透かしている?
その力は大気が関連しているようにはとても思えなかった。
ジルの言葉が続く。

「”透心”ができるんだ」

やはり。ユミは何故か容易に納得することができた。
ジルもそれを読んでいたのか感じ取ったのか、さほど驚かないユミにお構いなしに続けた。
「簡単に言ってしまえば、人の心を読み取る事ができる。だから君の名前や俺をつけてきた理由も何を聞きたがっているのかもわかるって事」
そこまで話すとジルはユミをじっと見つめた。
その真っ直ぐな眼差しにユミは少しだけたじろいでしまった。
ジルが不意に人差し指を立てる。
「ずばり・・」
何がずばりなのかよくわからなかったが、ユミには話を遮る理由もなかったのでそのまま聞くことにした。
「君が俺をつけてきたのは、俺が黒いローブを着た女?・・に見えたからだろ?」
女の部分を少し濁したのが気になったが、ユミは「そうです」と頷いた。
「ふむ・・・。まぁその女の話は後で詳しく話すとして、まずはさっき俺が何をやったのか・・・それを話すよ」
後で話す・・?という事は本人ではないがその女についてこの人は何か知っているのだろうか?
ユミは連日感じていた謎への解決の糸口が見つかったような気がした。
「ん・・・それが聞きたい事じゃなかったか?」
「あ、いえ、お願い・・します」
ユミは慌てて答えた。今のもやはり”透心”されたんだろうか。
迂闊に他の事を考えるのをやめた方がいいな。ユミはそう心の中で思った。
「お・・・そうだ」
またさらにそれを”透心”したのか。ジルはおもむろに自分のローブのポケットをあさり始めた。
そしてポケットの中から一枚の古びた硬貨を取り出すと、それをユミに差し出しながら言った。
「これを渡しておく」
ユミは硬貨を受け取るとまじまじと見つめた。銀色の硬貨だがところどころ錆が浮いている。表裏何か文字のようなものが記されているようだがかなり磨耗していて読み取れない。
「なんですかこれ?」
「透心傍受」
ジルは間髪いれずあっさり答えた。
「へ?」
ユミはその答えに思わず変な声をだしてしまった。
「ほらフェアーじゃないだろ。話し合いにはさ」
確かに。ずっと心を覗かれたままでは、そのなんというか・・・居心地が悪い。しかし・・・
「・・こんなので効果あるんですか?」
そう、見た目はただの硬貨なのだ。そんな人の心を見透かすような能力に対して満足な効果が得られるとは到底思えなかった。
「あるよ。それ特殊な錬金術で合成してあるから」
「はぁ・・」
いまいち納得できる説明ではなかったが、ユミはその硬貨をぎゅっと握り締めた。
「いや・・別にそんな力込めなくても大丈夫なんだけどなぁ」
少し悲しそうな顔をしてジルはつぶやいた。
「あ、ごめんなさい・・・」
ジルからすればその行為は自分を避けているような感じなのかもしれない。
そう思ったユミは手を少し緩めた。

「よし、アンフェアーじゃなくなった所で話を戻そう」
ジルの仕切りなおしの声はすっかり破天荒な調子に戻っていた。
「…はい」
ユミも致し方なくそれに付き合う。
「さっきのガルカを倒したのも原理は”透心”。それプラス侵食行為でノックアウト」
いきなりだ。説明が簡単・・適当すぎる。
「・・ごめんなさい。全然わからないです」
わかるわけがない。ユミは謝ってしまった自分に少し後悔した。
「むむ・・だから人の心にはね、必ず弱い部分があるわけよ」
「弱い部分・・」
「簡単に言うと表に出せないようなネガティブな部分。君にもあるだろ? 人には言えないような悩みとかさ」
「あぁ、はい」
そこまで言われてユミはようやく理解することができた。
「そこを見つけ出して精神的打撃を与える」
精神打撃・・・?心を攻撃するなどピンとこないユミは思わず首をひねってしまった。
「あのガルカの場合。ヒュムにつけられた名前がひどいものだったらしくてその事をずっと隠して生きてきたみたいだな」
坦々と話すジルだが、聞き手のユミには謎がどんどん増えていく。
「あの、そこを攻撃?・・しただけであんな風になっちゃうものなんですか」
ユミは率直な疑問を述べた。
「人の心の傷というのは人それぞれさ。名前なんて気にしていないガルカだっていれば、やつみたいに心底嫌がったやつもいるんだろう」
なるほど。完全に理解できたわけではないがそう言われれば何となく納得できる。
一つ謎が解決したところでユミは更に踏み込んだ。
「・・その攻撃は誰にでもできるんですか?」
「んーまぁ基本的にはね。だけどできないやつもいるよ」
ジルは少し困った顔をした。どうしてだろう・・・こういう顔をすると妙に幼く見える。
まぁ元々タルタル族は歳を重ねても見た目は大して変わらないのだけれど・・・。
「心を鍛えてるやつはダメ。ノイズが多すぎて見えない」
「ノイズ・・?」
聞きなれない単語だった。
「簡単に言うなら雑念かな。見たい部分に砂嵐のようなビジョンが重なって見えないんだ。で、君がぎゅっと握ってるその硬貨にはノイズが沢山でるように合成してある」
「だから傍受・・・」
ユミは握り締めている硬貨をチラっと見た。相変わらずそんな効果があるようには見えないけど。
「そそ、だから君にもできない。・・・あとは外にいるこわーい獣人かな」
「獣人・・ですか」
「うむ・・あいつらは創造主が違うから」
創造主?ユミは首をかしげた。
確かにユミやジルなどタルタル族を含む他の種族達はアルタナの女神より産まれたとされていた。
そしてそのアルタナの民と対等するように産まれたのが獣人。獣人はプロマシア男神が創造したのだとか。
しかしその創造主の違いがジルの能力となんの関係があるのか?
ユミはどうもジルがまだ何かを隠しているような気がして仕方なかった。
「あぁちなみにねぇ。この侵食行為は一回使うとものすごーーーく体力を消耗するから、大人数には対応できません」
ジルはブブーと体の前で両手をばってんに組んで見せた。しばしの間を置いてユミはようやくその意味に気がつく。
「あ! だから・・・」
机に並べられた多数の料理はその代償なのだ。
「そ、腹がへるのよ・・めちゃめちゃね」

グーーー。

ジルがそういい終わるか否のタイミングで空腹のサインを示す音が聞こえた。
「今のは俺じゃないな」
ジルが自分の腹を押さえながら言う。ユミを向き直ると恥ずかしそうに腹を押さえていた。
「おまたせしました」
ちょうどその時ユミの頼んだ料理を持って店員が机の前にやってきた。
慣れた手つきで配膳を済ますと、また「ごゆっくりどうぞ」といって去っていった。
「腹へってんだったら。続きは食べながら話そうか」
いつの間にかジルは両手にナイフとフォークを持って構えている。
そういえば、とうの前に運ばれてきたジルの料理はろくに手をつけていないままだっけ。
無我夢中で料理にがっついていた理由がわかった今、ユミにはジルを制止する事などできるわけがなく、ジルの意見に賛同した。
「・・はい」

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第捌輪 セイレーンの涙
2008-06-02 Mon 00:06
「あのぉ・・・」
ユミは困り果てていた。
目の前で料理にがっついている男に話しかけるタイミングを完全に失っている。
「すみません」
ユミはもう一度試みた。
「・・・ん?」
男は一瞬手を止めて顔を持ち上げた。膨らんだ頬をモグモグと動かしている。
そして眉をへの字に曲げたユミを見つめると少し照れながら言った。
「あぁ、わふいわふい。ひにひないでなんでもふきなのらのんひゃって」
口の中に食べ物を入れているせいでいまいち何を言っているかわからなかったが、おそらく好きなものを頼めと言ったんだろうとユミは悟った。
男はそれだけ言うとまた料理にがっつきだした。
(ふぅ・・・)
ユミは思わずため息を漏らす。

ここはバストゥークの港区にある「蒸気の羊」亭という酒場。
鉱山区のガルカ族の居住区から逃げ出した二人は、しばらく身を隠す為この場所を訪れていた。
ヒュームを極端に嫌い接触を避けている彼らだ。ヒュームの経営する店こそ近づきにくい場所だろうと男は言っていた。
店の中はそんなに広くないが仕事帰りや夕食目的の人々で賑わっている。
中央奥のカウンター内で忙しそうに一階と二階を行き来しているご婦人がこの店の主人。
不慣れな帳簿や仕入れの為お客の相手ができていないといつも気にかけていた。
それもそのはず、酒場という名こそついているがメニューが豊富で普通に食事できる食事処でもあるからだ。
その為食材の仕入れ量は半端ではない。
ユミは母と良く来る馴染み深い店だったので主人とは面識があった。
いつもユミと母が訪れると笑顔で迎えてくれる。今日も笑顔で迎えはしてくれたものの・・・
今日一緒にいるのは母ではなく通りすがりの救世主・・・といっていいのだろうか?
見慣れないお客に主人は一瞬不思議な顔をしたが、すぐに「ゆっくりしていってくださいね」と優しい声をかけてくれた。
ユミが少し主人と話し込んでいると男はそそくさと席につき料理をオーダー。
ユミが主人と別れ席に着く頃には男の前には簡単な料理が並び、すでに料理に夢中だった。
何度か話しかけようと思ったが、なんだかあまりにも必死になって食べているので悪い気がして声をかけられなかった。
そして結局つい先刻起こった出来事を何一つ聞けていないまま現在に至る。

このままではラチがあかない。そう思いユミもとりあえず何か頼むことした。
普通なら、きっとさっき起きた出来事のせいで食欲もないくらい怯えていただろう。
しかし男のあまりに破天荒な行動に気が緩んで、ユミは少しお腹がすいていた。
それに・・・今日はどの道誰も家にいないのだ。ここで夕食を済ませるのが利口だろう。
「すみませーん」
ユミは軽く手を上げて近くにいた店員を呼んだ。
「あ、はーい」
威勢のいい声と共に一人の店員が駆け寄ってくる。
「カルボナーラください」
主人曰く最近新しく始めた麺という食材を用いた料理らしい。ユミは前に来たときに食べたことがあり大変気に入っていた。
「はい、カルボナーラですね。ありがとうございます」
オーダーを受けると店員はパタパタと音を立てて厨房の方へと去っていった。
それを見送るとユミは視点を正面に戻した。目前の男は相変わらずムシャムシャと音をたてて机に並べられた料理を貪り食っていた。
(すごい食欲…)
男にあっけにとられているとその向こう側、店の端で連れを相手に何やら熱弁をしている男が見える。
セイレーンがどうとか・・・。
ここからではよく聞こえないが身振りがかなりオーバーなので思わず見入ってし
まった。
「セイレーンの涙か」
「え?」
突然声をかけられユミは視点を戻した。
目の前で料理にがっついていたはずの男がユミを見つめている。
「知ってるか?」
男の質問は唐突だ。
「え、何をです?」
ユミは突然の質問に一瞬うろたえたが何とか応えた。
「セイレーン」
「セイレーン・・・ですか」
まったく知らないわけではない。しかし学校で習った知識などどれほど通用するのか、ユミにはいまいち自信がなかった。
「学校で・・・遥か昔に存在した召喚獣だという事くらいしか」
「ふーむ」
やっぱりといった反応だった。
男は指を顎に当てて悩ましげなポーズをとっている。
そしておもむろに口を開く。
「セイレーンはかつてこの大地をおさめていた神々の一人だったそうな」
(そうなって・・・)
この人は一体いくつなんだろう。ユミの頭はセイレーンの事より目の前にいるこ
の男の正体のほうが気になって仕方なかった。
「で、セイレーンは優しさを司る神様で、アルタナの民が誕生した時、他人を思いやる心
を与えたんだとさ」
(だとさ・・・)
変な語尾をつけるのが流行なのだろうか・・・ユミはますます男の事がわからなくなった。
「ところが・・・」
男が突然話すのをやめた。
急にピタッと動かなくなってしまったのだ。
「あ、あのぉ?」
ユミは慌てた。
まるでさっき鉱山区で見たガルカのように動かない。
瞬きもせず口を開いたまま静止している。
ユミは体を揺すろうと身を乗り出し男に手を伸ばそうとした時・・・
「そういえば」
ビク!
突然男は我に返った。
ユミは不意をつかれ机の上で倒れそうになる。
机が目前に迫ったところで何とか体制を持ち直した。
「なんですか?」
そういいながら、ユミはゆっくり椅子にすわり直す。
それを見届けた男が少しの間をあけて続けた。
「自己紹介したっけ?」
「な・・・?!」
ユミは完全に呆気にとられた。
予想もしなかった言葉に口をポカーンと開けてしまった。
しかし男は至って真面目なようだ。
また指を顎に当てて頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「まだだったよね?」
男にそう言われユミはハッとした。
「あ、え、はい。まだですね」
何だか変な汗が出てきた。
この人はどこまでマイペースなのだろう。
まともに付き合っていたらこっちが疲れてしまいそうだ。
ユミは自分で平常心を保つ努力をした。
男が続ける。
「俺はジル。ジルライト・マジター。よろしく」
ジルは身を乗り出して小さな手を差し出して来た。
「あ、はい。」
ユミも同じく身を乗り出して握手に応じる。
こうしないとタルタル同士ではヒューム基準で作られた机の上では手が届かないのだ。
「あの、私は・・・」
ユミも自分の紹介をしようと口を開いた。
すると突然それにかぶせるようにジルが口を開く。
「ユミ・・だろ?」

ユミは硬直した。そしてこの人の前では、平常心を保つなど無理な事だとまざまざと思い知らされるのだった。
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