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第拾壱輪 擬態ガルカ
2008-08-22 Fri 22:27
どうしてこうなってしまったのか・・・。
もっと早くに引き返せばよかったとユミは独り言ちていた。
現在ユミが恐る恐る歩を進めているのは、つい先刻逃げてきたばかりのガルカの居住区だ。
ユミの前を歩くもう一人の人物。同じ種族タルタル、ジルがいる。
二人は寸分の隙間なくくっついて歩いていた。
なぜそんなに密着する必要があるのか。それは、こうしていないと怪しまれてしまうからだ
「(ジルさん、いつまでこうしてればいいんですか?)」
ユミがジルの耳元で囁いた。
「(ん・・・着くまで)」
(はぁ・・・)
聞くんじゃなかった。
ユミは深くため息をついた。
「(おい!動くなって)」
「(ご、ごめんなさい)」
この作戦を説明された時、絶対に歩く以外の行動をとるなと言われていた。
もっぱらあまり気が進むような作戦ではなかったが、他に方法がないと言われ致し方なく賛成してしまった。
よく考えればもっと他に良い案があったろうに・・・。
この作戦はその・・・あまり頭が良い感じではない。
ジルに説明された作戦はこうだ。
ジルが着ているローブを二人で被り、ガルカの子供に成りすます
思い返せば思い返すほど賛成してしまった自分を後悔してしまう。
見てくれは決してガルカと言えるものではない。
しかしジルの能力をフルに活用し、道中出会うガルカ自身に暗示をかける事によりそれらしく見せている…らしい。
ジルの熱のこもった解説を思い返しながらも、頭上にある紙で作ったガルカの顔が本物に見えるとは到底思えなかった。

そもそも何故二人がここにまた舞い戻る事になったのか…。
すべてはジルの正体を聞いたときから始まっていた


――――――――――――――――――


あれ? いってなかったっけ?

ジルが真顔で答えた。
「な・・・」
ユミはその返答にあんぐり口を開けてしまった。
ジルが髪をくしゃくしゃとかきながら言う。
「いや、わるい。あまりにどたばたしてたからさ」
「は、はぁ・・・」
確かにジルとユミが出会ってから怒涛の展開だった。
何を話して何を話していないかわからなくなるのも無理はない。

コホン。

ジルが間をとるように一つ咳払いをした。
「えーご紹介預かりましたわたくしぃ」
(預けてないし・・・)
突っ込みたい気持ちを抑えながらジルの演説につきあった。
「ジルライト・マジターと申します。ジルとよんでくれぇ」
「いや、それは知ってます・・・」
「む・・・」
(はぁ、これは真面目に付き合ってたらこっちが疲れちゃうな)
「えーっと・・・?」
ジルが真面目に困った顔をしている。
ユミがすかさず補正を加えた。
ジルさんは何をなさってる方なのですか?
改まった言い方をするほどの相手ではないが、あえてかしこまった言い方をすることでユミはジルに逃げ場のないよう仕掛けた。
「あぁ、お仕事ってやつね?」
それでもおちゃらけた口調は変わらない。
ユミはその次の言葉がでるまでじっと耐えた。
「えっとねぇ、ひじょーに解答に困るんだけど。・・・俺も同じかな?」
(同じ?)
また主語がない。じっとジルを細目で見つめる。
「モーグリと」
「モーグリ?」
「そ。俺も放浪の身ってことさ
「・・放浪・・・ですか」
なんだか結局逃げられた気がしてユミは悔しかった。
しかしそのあとに続く言葉はなく、もうこれ以上の追求は無駄だと悟った。
それなら・・・
ジルさんは何故バスに来られたんですか? 放浪の旅人なら定住してはいないんですよね?
ユミは質問の方向を変えた。
後者には「ここに住んでる」と言わせない意図が込められている。
そうでなくても、服装やバストゥーク国民なら誰しもが近づきたがらないガルカの居住区にいた事を考えれば、定住者ではないのは一目瞭然なわけだが。
「んー。鋭いねぃ」
流石にふざけた態度は消えたようだ。
唇を結び真面目な表情でユミを見つめている。そして観念したようにその口をゆっくり開いた。
「わかったよ。君には隠し事はできないみたいだ」
「お願いします」
ホッとユミは心の中でひとつ息を吐いた。
察しの通り俺はこの国の民じゃない。さっきも行ったけど留まる場所を持たない放浪者だ
「はい」
ユミが一つ相槌をうつ。
「俺がここに来たのは・・・その・・ある物を探しにね
「ある物?」
「あぁ、ある物さ・・だけどそれはなかったんだ
「ちょっと待ってください。ある物ってなんですか?」
このパターンは以前にもあった。このまま放置しておくと流されてしまう。
「まぁまぁそれはまた後で話すから、とりあえず続きを聞いておくれ」
「はぁ・・・」
ジルに宥められる形でユミは引き下がった。
「んで、俺はそれを作った主を訪ねようと思ったわけさ
「・・はい」
なんだか話が見えてこないが、ここは一つ我慢だ。
ユミはグッと心の奥に募る気持ちを抑えた。
「そいつは鉱山区に住んでてね・・・」
(鉱山区?)
ユミは何かが繋がったような気がした。そしてハッとする。
「あ!」
ユミが気付くのを待っていたかのようにジルは口の端を持ち上げて言った。
「そう、その主に会いに行く途中に君に跡をつけられたってことさ
「あぅぅ」
ユミは何だか恥ずかしい気分になった。
まさか自分の勘違いで起こした行為に繋がるとは思っていなかった。
ユミは両手で顔を覆って下を向いてしまった。
「まぁまぁ、この出会いにはきっと何か意味があるんだ。そんなに落ち込むなって」
ジルがそう言ってくれたので、ユミはなんとか顔を持ち上げることができた。
「で、話を戻すけど俺はこれからそいつに会いに行こうと思うんだ」
「え・・今からですか?」
もうすっかり日は沈み、皆が夕餉を楽しんでいる時間だ。
しかも向かうはあの鉱山区・・・そう考えただけユミは身がすくんでしまった。
ユミが数刻前に起こった出来事を思い返していると、ジルがとんでもないことを提案してきた。
「君も一緒にどうだぃ?」
「へ?」
(なんで?)頭の中にはクエスチョンマークが無数に浮かんだ。
だがそんなことはお構いなしにとジルは続ける。
「ある物がなんなのか知りたくないのか?」
「・・それは、知りたいですけど」
「何か問題でも?」
「いや・・だってあの場所にもう一度行くんですよね?」
「そうだよ」
ジルはあっさり答えた。
この人には恐怖心というものがないのだろうか?
ユミが頭の中で迷っているとジルが手をパタパタさせながら言ってきた。
「あぁ、ガルカか。大丈夫大丈夫、良い作戦があるから


――――――――――――――――――


その良い作戦がこの『ガルカの子供に成りすます作戦』。
(はぁ・・)
あまりのやるせなさにユミは再び深いため息をついてしまった。
するとジルが突然歩くのを止め、急停止をかけた。
どん!
(いったぁ・・・)
その勢いでユミはジルの後頭部に鼻をぶつけてしまった。
「(ど・・どうしたんですか?)」
ユミが鼻を摩りながらジルにヒソヒソ声で問うた。
「(し! やつらがいる)」
ユミの場所からは何も見ることができない。
前にはジルの頭。周りはローブで完全に塞がれている。
見えない「やつら」がなんなのかわからないまま、ユミはジルの次の言葉を待った。
「(いいか。絶対おかしな行動はとるなよ?)」
ジルが再度確認してくる。
ユミはそれに軽く相槌を打つことで答えた。
そして再び二人は歩き出す。

コツコツコツ・・・

十歩くらい歩くと誰かの話し声が聞こえてきた。
何を話しているかはわからない。
しかしそれはさらに歩を進める事で鮮明になっていった。

コツコツコツ・・・

「おい!まだ見つからぬか!」
怒鳴っている声が一つ。声のトーンからいって相当怒っているようだ。
おそらく先刻ジルが倒した大型のガルカだろう。
「もうここにはいない!いい加減あきらめろ!」
それに答える声が一つ。こちらも相当熱が上がっているようだ。
「ち・・やつら今度会ったらただじゃおかぬ」
(やつら・・きっと私たちの事だ)
今見つかったら・・きっと殺される。
そんな事を思いながらいよいよ彼らの横を通り抜ける所だった。
その時だ。
「おい!待て!」
心臓がひとつはねる。一つの声に呼び止められてしまった。
ジルがそれに合わせて体を横に向ける。
ユミも慌ててあわせる様に後ろへ回った。
「貴殿、どこのものだ?」
「・・・・・・」
その呼びかけにジルは何もこたえようとしない。
後からでは何も見えないのでわからないが、何かを念じているように見える。
ユミは自分の心臓の音がうるさくて気が気ではなかった。
しばらくするとジルが何も発していないのに、ガルカは一人会話を続けた。
「・・そうか、見つかるとよいな。行ってよいぞ」
そう言われてジルが歩き始めたのでユミもそれに続いた。

しばらく歩いたところでユミは声を潜めてジルに問うた。
「(何かしたんですか?)」
「(いやなにも?)」
これが暗示というやつなのだろうか?
少なくともユミにはこの擬態ガルカの声は聞こえなかった。
しかしあのガルカは確かにこの擬態ガルカと会話をしていた。
ユミは初めてジルの作戦はおちおち失敗ではなかったと思った。
が、それも束の間。しばらく行くとまたガルカの人だかりに遭遇する。
今度は少し数が多い。
ジルが慎重に人々の隙間をすり抜けていく。
「あっちのガルカは・・」とか「ヒュムどもは・・」とか「ヒュムに手なずけられた愚か者・・」とか、そんな罵声が聞こえてくる。
ここに住んでいる人々は相当恨みを募らせているようだ。
ここは一刻も早く退避したい場所だ。ユミはそう思いながら自然と歩くスピードを上げていた。
しかし、それがまずかった・・。
歩調を狂わせたユミの足は見事にジルの足を踏んだ。
「(おわっ!)」
ジルは声を押し殺してなんとか体制を持ち直そうとした。
しかし、無駄だった。
どーん!
努力空しく大転倒。二人は見事にローブからはみ出し、その姿をガルカ達の前に露にしていた。
「・・な!」
その場に居合わせたガルカ達が一斉にこちらを振り向く。
みるみるうちにガルカ達の表情が変わっていった。
そして一人が空に向かって吼えた。
「やつらだ!やつらがいたぞ!!」
「ちっ!」
ジルが咄嗟に起き上がるとユミの手をひいて叫んだ。
「走れ!!」
ユミはもう泣きそうだ。何がどうなったのかわからない。完全にパニック状態に陥っていた。
ジルの手を何とか離さない事だけで精一杯だった。
震える全身をなんとか起こすとやっと足を前に踏み出せた。
「にがさん!」
そこへ一人のガルカが襲い掛かる。大きな手を広げユミに迫った。
ジルがすかさず前に出る。
そして、片手をかざすと目を大きく見開いた。
「ぐあ・・」
ガルカがズシンという音を立てて地面に倒れた。
しかしまだ後手が迫ってくる。
ジルは振り返ると再びユミに叫んだ。
「ユミ!行くぞ走れ!」
ユミは走った。無我夢中で。道中何が起きたかなど覚えていない。
ただ前を走るジルの手を握り両足を精一杯動かす事で必死だった。


どれくらい走っただろう。
ジルが突然建物の影に隠れた。ユミもその後を追う。
「はぁ・・はぁ・・とりあえず・・大丈夫だろう・・」
息をきらしながらジルが言う。
ユミの手を離すと壁にもたれかけるように座り込んでしまった。
ユミもその場に座り込んだ。
「はぁ・・ご、ごめんなさい・・」
息も絶え絶え、自分のせいでこうなってしまった事をユミは悔やんだ。
その言葉にジルは手を上げて答えた。
「いや・・いいんだ・・おかげで予定より・・はやく着いたしね・・」
「・・え? 着いた・・?」
ジルは上げた片手で今入ってきた通りとは反対の方向を指差した。
暗くてよく見えないが、なにやら白いものが浮いている
「はぁ・・・ふぅ・・落ち着いた?」
ジルがユミに問う。
「あ・・はい」
呼吸もようやく整い出し二人は重い腰を上げた。
ジルが指差した方向へゆっくり歩き始める。
ここは家と家の間だろうか。狭くて月の光もあまり届かない。
それでも目を凝らせばなんとか道は見える。
地面にはあちこちに残骸が散らばり、ここがいかに廃れた場所なのかがわかる。
ふさわしい言葉を捜すならまさしく廃墟だろう。
残骸に目を奪われていると、いつのまにか目の前に大きな壁が現れた
首を90度近く曲げなければ天辺が見えない。
「行き止まり・・?」
ユミが独り言ちた。
「いや、そうじゃない」
ジルがそういうと徐に自分達のすぐ頭上を指差した。
ユミがそれにつられて後ずさりしながら視界を移動させる。
下を向いて歩いていたせいでまったく気付かなかった。遠くから見えた白いものはこれだったんだ。
家と家を結ぶ一本のロープ。それにかかる大量の服のようなもの。この廃墟には似つかわしくない純白・・・

洗濯・・物・・・?

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第拾輪 闇の影響
2008-08-11 Mon 23:26
(はぁ、今日も忙しいわ)
パタパタパタと足音を立て、慌ただしく歩いているのは蒸気の羊亭の主人ヒルダだ。
彼女は未亡人だ。早くに夫を亡くし、今では一人で店を切り盛りしている。その事を周りからは感心されていた。
しかし当の本人は毎日が戦争。
売り上げと在庫のチェック、さらに新メニューの開発と何から何まで自分でやっている。
他に従業員がいないわけではない。
しかし、彼女の人柄だろうか、他の人に自分のような思いをさせるくらいなら自分で背負ってしまった方が気が楽なようだ。
だから彼女は毎日一階と二階の行ったり来たりを繰り返している。
もう、何回目だろう。ヒルダは再び二階から一階へと降りていく所だった。
「いらっしゃいませ~」
どんなに忙しくても、お客様を迎える声だけは決して忘れない。
たった今入口から入ってきたのはヒルダにとって馴染み客だった。
「あら、オットさん。こんばんは」
カウンター越しに声をかけられた客が反応を示す。
「あ~ヒルダさん。相変わらず忙しそうだね」
オットと呼ばれたヒュームの男がニコニコとヒルダに片手を上げて答えた。
「ごめんなさいね~いつもちゃんとお話できなくて…」
「いやいや、ヒルダさんが頑張ってるのはみんな知ってるから大丈夫ですよ~」
悲しそうな顔をしたヒルダにオットが優しく声をかける。
そう言ってくれる事が唯一の救いだった。
オットが席に着くのを笑顔で見送ると、ヒルダはまたせっせと自分の業をこなす。
カウンターの脇に並べられた売り上げ表とにらめっこを始めた。
(う~ん、やっぱりこの時間は伸びが悪いわね)
眉間にシワがよる。
(あ・・・)
いけないいけない。ここはお客様から見える場所なんだから。
ヒルダは表情を元に戻すと売り上げ表越しに客の方に視線を向ける。
一人で飲んでいる者、家族連れで夕食を楽しんでいる者、はたまた隣の客に絡む陽気な者まで…
皆それぞれに楽しい一時を過ごしている。
ヒルダはそれを見て思わず笑みを浮かべた。
自分の事はどうでもいいのだ。この蒸気の羊亭にいらしてくれるお客様が楽しい一時を過ごして下さるなら…
ヒルダはそう思いながら唇をキュッと結んだ。
改めて気持ちを入れなおしたヒルダは売り上げ表を片手に今降りてきた階段をまた昇ろうと足を踏み出した。

その時だ。

ドンッという大きな音と共に店内が静寂につつまれた。
(なに?)
ヒルダは慌てて音の主を探す。
皆が視線を送っている先、机を両の手で思いっきり叩いていたのは馴染み客のユミだった。
対面して座っている男の客に牙を剥いている・・・ように見える。
(ユミちゃん・・?)
ヒルダは心配そうに彼女を見つめた。
ユミは普段母親と一緒にこの店によく来る客だった。
もうかれこれ十年以上の付き合いになるだろうか。ユミがまだ小さい時からヒルダは彼女と面識があった。
だからユミの性格もだいたいわかっている。彼女があんなにも怒っているのは尋常ではないのだ。
(大丈夫かしら?)
じっとユミを見つめていると、自分に視線が集まっているのがわかったようだ。
彼女は周りに謝罪しながら慌てて席についた。
その途中一瞬目があったような気がして、ユミはばつが悪そうな顔をしてした。
ヒルダは心配だったが、その後ユミが冷静さを取り戻したように見えたのでとりあえず安堵する。
一つ呼吸をすると、ヒルダはふとユミの前に座っている男に目を向ける。
(ユミちゃんが知り合いだっていってたけど・・・見かけない顔ね)
ヒルダはこの商売を始めて長い。馴染み客は勿論、たまにしかこない客の顔もだいたい覚えているつもりだ。
しかし彼は・・・
(・・・いけないいけない。詮索はよくないわね)
ヒルダは自分の考えを抑制した。ユミちゃんはしっかりした子だから大丈夫。そう自分に言い聞かせて。
売り上げ表を片手に、彼女はまたパタパタと二階へと連なる階段を昇っていった。



「さて・・・」
しばしの沈黙から第一声を発したのは馴染みのない客、ジルだった。
「ふぁい?」
それに答えるは、店員によって運ばれてきたカルボナーラを口に含んだユミ。
変なタイミングで話しかけられ少し困っていた。顔だけをジルに向けて眉をへの字に曲げている。
「そんな顔するなよ・・・」
ジルは少し申し訳ない気持ちになった。
ユミがそれを見て慌ててカルボナーラを水で流し込んだ。そしてジルに問う。
「ごめんなさい。なんですか?」
「話を再開しようか」
「あ、はい。」
ユミはジルに向き直る。それを見届けたジルが話を再開した。
「俺の能力の説明はとりあえず納得してもらえた?」
「はぁ、まぁとりあえずは・・・」
本当はまだ府に落ちない部分があったが、今はそれだけを気にしているわけにもいかないのだ。
謎の女・・・ ジルは彼女について明らかに何かを知っているような態度を見せた。だからそれを早く聞きたかった。
しかし次にジルが話を広げた先はそこではなかった。
「ちょっと二三聞きたい事があるんだけど」
「はい?」
奴等はいつからここにいる?
唐突な質問だった。
「奴等?」
もちろん何のことかわからず問いを問いで返したユミに、ジルは間髪いれず答える。
闇の使い
「!」
謎の女と同じ言葉を耳にして目を見開くユミ。
「何をそんなに驚く?」
しかしジルは相変わらず平然としている。
その態度を見てユミは気づいた。
あ、そうかこの人は心が読めるんだった。きっともういくつか覗かれた後なんだろう。
「あ、…でもいつからって?」
そうだ。彼は何故現れたかではなく明らかにその先をいく質問をしている。
「ふむぅ・・・」
ジルは顎に指をあてて考え込んでしまった。
「あの、ジルさん?」
神妙な面持ちで考え込むジルをユミが心配そうに覗き込む。
しばらくの間を置いてジルが重々しく口を開いた。
「君は先の大戦を知ってるか?」
「学校で多少は・・・」
少し昔の話、アルタナの民と獣人達が戦った戦争の話だ。
「まぁ大戦が起きた事実を知ってればいいんだけど、実は今回も同じなんだよね
ぇ」
「同じ・・・ですか」
何が?ジルの言葉には何かと主語がない。だから話を掴むのに少し遠回りをしなければいけない。
しかしこの状況にユミは何故か少しずつ慣れてきていた。少し待てばその答えは自ずと聞けるのだから。
「闇の使いだよ。やつらは以前にも現れてるんだ
「!?」
聞けた答えにユミはまたも驚愕した。
「そんな事、誰からも教わらなかったというような顔をしてるな」
コクコク。ユミは言葉にできない思いを首を縦に二度振ることで表現した。
「まぁ無理もないけどねぇ、表に流れてる情報なんてほとんどフェイクなんだからさ」
「隠蔽・・・って事ですか?」
「そゆこと」
まぁ例え発表してたところで奴等は普通の人には見えないから、事実を公表したところでなんら変わりはしないと思ったけど・・・
そこでジルは少し話を区切った。なんだろう・・・この言葉の意味にユミは少しひっかかるものを感じた。
「しかし、また再び姿を現したとなるとさすがに無視はできん」
そこまで話すとジルは水に手をのばした。カランカランと中の氷が音を立てて揺れる。
ジルが水を飲み終わるのを待って今度はユミが問うた。
「いつからいるのかはわからないですけど、アレは・・・闇の使いは一体何をしているんですか?」
世界の査定。ユミの頭にはあの謎の女の言葉が浮かんでいた。
「さぁね、さすがにそこまでは俺でもわからん。でも先の大戦は奴等が姿を現し
た事をきっかけに勃発したそうだ」
「トリガー・・・」
「おそらく間違いないだろうねぇ、それに呼応するように闇の魔族も続々と姿を現したわけだし」
「なるほど・・・ あ、そういえばさっき。」
今になってさっきの言葉のなんとなくひっかかるものがわかったような気がした。
「ん?」
「闇の使いは普通の人には見えないって…」
「あぁ、そうだよ」
「君も知ってるだろ?」
「はぁ・・・」
知っているというより、ただ漠然と誰も見えていないような気はしたけど・・・。
「見えないというより、見るための資格を持ち合わせていないと言った方が正しいかな」
「資格ですか」
「そぅ、あれは人が個々の力で見ているものではなく、他者の力添えがあって始めて見ることができる
「・・・」
なんの事かさっぱりだ。ユミには理解に苦しむ回答だった。
それを切り崩すようにジルが補足を加える。
「ほら、君の家から誰かいなくならなかったか?」
「!」
その意味に気がつくユミ。
「あれも獣人だからねぇ」
「ちょ、ちょっと待ってください。モーグリ族はどこの家庭にもいるじゃないですか?」
「たしかにたしかにぃ。だけど彼等にも我々のような種族が存在することはしってるか?」
「みんな一緒だと思ってました・・・」
「種族という程大袈裟なものでもないけどねぇ、何らかの理由で闇の影響を強く受けたごく少数派とそうではないものがいるそうだ」
「闇の影響・・・」
「それでその力が一部のアルタナの民に影響を及ぼしていると・・」
「はぁ・・・」
なんだか想像もしなかった世界だ。まさか身近にいたモグちゃんにそんな力があったなんて・・・。
そう思っているとユミに一つの疑問が浮かんだ。
「里帰り・・・どうしてモグちゃんは突然いなくなったんですか?」
「ん~・・・なんでだろうねぇ」
「・・・」
ユミは拍子抜けしてしまった。自分で投げかけた話題だ。
何故そこまで知っていて、いなくなった理由がわからない・・。
「俺も聞いただけの話だからさ。以前も奴等が現れた時一部のモーグリ達は突然姿を消したそうだ
「え・・・聞いたって誰にですか?」
「トラベラーモーグリ」
「へ?」
聞いたことのないモーグリだった。それも種族の違いなのだろうか。
「放浪のモーグリだよ」
「放浪って、モーグリ達は外に出るのを極端に嫌がるはずじゃ・・」
「なかには変わり者もいるって事さ」
なるほど。現に今ユミの目の前にいる人物は決して普通ではない。そう思うと安易に納得できた。
「その後の話は聞いたような聞いてないような・・なんか俺の中でも曖昧なのよねぇ」
ジルは首を傾げた。
「そう・・なんですか」
なんて適当な人なんだろう。ユミはつくづく思った。
「夜中に話してたんだけど、なんか気付いたら朝になっててモーグリがいなかったんだよねぇ・・」
(それって話の途中で寝ちゃったんじゃ・・・)
そう思ったがユミは言葉にはしなかった。なんとなく面倒になりそうな気がしたから。

刹那の沈黙の後、ジルは話を切り返した。
まぁそれはさて置き奴等が現れたということは、何かが起ころうとしているということだ。あるいはもっと早い段階から現れていたのなら・・・もう起きているのかもしれないが
闇の契約
ユミは謎の女が言っていた言葉を無意識につぶやいていた。
「ん?」
「あの女の人がそう言ってました。闇の契約が結ばれた、間もなくこの世界は闇へ還されるであろうって」
「うむ・・闇の契約ねぇ」
そこまで聞いてジルはまたも神妙な面持ちで考えこんでしまった。
「ジルさんはあの女の人の事、何か知ってるんですか?」
やっとの思いで聞くことができた。最もユミが気になっていた事だ。
しかしジルから返ってきた答えはその疑問を解決できるものではなかった。
「それなんだけど、本当に俺にもわからないんだ」
ジルが悲しそうな顔をして言う。
ユミはなんだか力が抜けてしまった。やっと・・やっと解決の糸口が見えたと思ったのに。
「だけど・・・」
その様子を憂いたのかジルが言葉を続けた。
その女の話、俺が知りたい事実と大きく関わっているような気がするんだ
ユミはふと思った。ジルに正体について・・・一体何者なんだろう。
何故私を助け、私の見たものに共感し、私に色んな事を教えてくれる。
その意図とは一体なんなのか。ユミは思い切ってジルに問うた。
「あの・・ジルさんは・・」
「なに?」
一体何者なんですか?
そう言われジルが少し動きを止めた。少し困った顔をして頭をポリポリとかく。
しばらくしてようやくその答えを返してきた。

あれ・・言ってなかったっけ?

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