スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | top↑
第捌輪 セイレーンの涙
2008-06-02 Mon 00:06
「あのぉ・・・」
ユミは困り果てていた。
目の前で料理にがっついている男に話しかけるタイミングを完全に失っている。
「すみません」
ユミはもう一度試みた。
「・・・ん?」
男は一瞬手を止めて顔を持ち上げた。膨らんだ頬をモグモグと動かしている。
そして眉をへの字に曲げたユミを見つめると少し照れながら言った。
「あぁ、わふいわふい。ひにひないでなんでもふきなのらのんひゃって」
口の中に食べ物を入れているせいでいまいち何を言っているかわからなかったが、おそらく好きなものを頼めと言ったんだろうとユミは悟った。
男はそれだけ言うとまた料理にがっつきだした。
(ふぅ・・・)
ユミは思わずため息を漏らす。

ここはバストゥークの港区にある「蒸気の羊」亭という酒場。
鉱山区のガルカ族の居住区から逃げ出した二人は、しばらく身を隠す為この場所を訪れていた。
ヒュームを極端に嫌い接触を避けている彼らだ。ヒュームの経営する店こそ近づきにくい場所だろうと男は言っていた。
店の中はそんなに広くないが仕事帰りや夕食目的の人々で賑わっている。
中央奥のカウンター内で忙しそうに一階と二階を行き来しているご婦人がこの店の主人。
不慣れな帳簿や仕入れの為お客の相手ができていないといつも気にかけていた。
それもそのはず、酒場という名こそついているがメニューが豊富で普通に食事できる食事処でもあるからだ。
その為食材の仕入れ量は半端ではない。
ユミは母と良く来る馴染み深い店だったので主人とは面識があった。
いつもユミと母が訪れると笑顔で迎えてくれる。今日も笑顔で迎えはしてくれたものの・・・
今日一緒にいるのは母ではなく通りすがりの救世主・・・といっていいのだろうか?
見慣れないお客に主人は一瞬不思議な顔をしたが、すぐに「ゆっくりしていってくださいね」と優しい声をかけてくれた。
ユミが少し主人と話し込んでいると男はそそくさと席につき料理をオーダー。
ユミが主人と別れ席に着く頃には男の前には簡単な料理が並び、すでに料理に夢中だった。
何度か話しかけようと思ったが、なんだかあまりにも必死になって食べているので悪い気がして声をかけられなかった。
そして結局つい先刻起こった出来事を何一つ聞けていないまま現在に至る。

このままではラチがあかない。そう思いユミもとりあえず何か頼むことした。
普通なら、きっとさっき起きた出来事のせいで食欲もないくらい怯えていただろう。
しかし男のあまりに破天荒な行動に気が緩んで、ユミは少しお腹がすいていた。
それに・・・今日はどの道誰も家にいないのだ。ここで夕食を済ませるのが利口だろう。
「すみませーん」
ユミは軽く手を上げて近くにいた店員を呼んだ。
「あ、はーい」
威勢のいい声と共に一人の店員が駆け寄ってくる。
「カルボナーラください」
主人曰く最近新しく始めた麺という食材を用いた料理らしい。ユミは前に来たときに食べたことがあり大変気に入っていた。
「はい、カルボナーラですね。ありがとうございます」
オーダーを受けると店員はパタパタと音を立てて厨房の方へと去っていった。
それを見送るとユミは視点を正面に戻した。目前の男は相変わらずムシャムシャと音をたてて机に並べられた料理を貪り食っていた。
(すごい食欲…)
男にあっけにとられているとその向こう側、店の端で連れを相手に何やら熱弁をしている男が見える。
セイレーンがどうとか・・・。
ここからではよく聞こえないが身振りがかなりオーバーなので思わず見入ってし
まった。
「セイレーンの涙か」
「え?」
突然声をかけられユミは視点を戻した。
目の前で料理にがっついていたはずの男がユミを見つめている。
「知ってるか?」
男の質問は唐突だ。
「え、何をです?」
ユミは突然の質問に一瞬うろたえたが何とか応えた。
「セイレーン」
「セイレーン・・・ですか」
まったく知らないわけではない。しかし学校で習った知識などどれほど通用するのか、ユミにはいまいち自信がなかった。
「学校で・・・遥か昔に存在した召喚獣だという事くらいしか」
「ふーむ」
やっぱりといった反応だった。
男は指を顎に当てて悩ましげなポーズをとっている。
そしておもむろに口を開く。
「セイレーンはかつてこの大地をおさめていた神々の一人だったそうな」
(そうなって・・・)
この人は一体いくつなんだろう。ユミの頭はセイレーンの事より目の前にいるこ
の男の正体のほうが気になって仕方なかった。
「で、セイレーンは優しさを司る神様で、アルタナの民が誕生した時、他人を思いやる心
を与えたんだとさ」
(だとさ・・・)
変な語尾をつけるのが流行なのだろうか・・・ユミはますます男の事がわからなくなった。
「ところが・・・」
男が突然話すのをやめた。
急にピタッと動かなくなってしまったのだ。
「あ、あのぉ?」
ユミは慌てた。
まるでさっき鉱山区で見たガルカのように動かない。
瞬きもせず口を開いたまま静止している。
ユミは体を揺すろうと身を乗り出し男に手を伸ばそうとした時・・・
「そういえば」
ビク!
突然男は我に返った。
ユミは不意をつかれ机の上で倒れそうになる。
机が目前に迫ったところで何とか体制を持ち直した。
「なんですか?」
そういいながら、ユミはゆっくり椅子にすわり直す。
それを見届けた男が少しの間をあけて続けた。
「自己紹介したっけ?」
「な・・・?!」
ユミは完全に呆気にとられた。
予想もしなかった言葉に口をポカーンと開けてしまった。
しかし男は至って真面目なようだ。
また指を顎に当てて頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「まだだったよね?」
男にそう言われユミはハッとした。
「あ、え、はい。まだですね」
何だか変な汗が出てきた。
この人はどこまでマイペースなのだろう。
まともに付き合っていたらこっちが疲れてしまいそうだ。
ユミは自分で平常心を保つ努力をした。
男が続ける。
「俺はジル。ジルライト・マジター。よろしく」
ジルは身を乗り出して小さな手を差し出して来た。
「あ、はい。」
ユミも同じく身を乗り出して握手に応じる。
こうしないとタルタル同士ではヒューム基準で作られた机の上では手が届かないのだ。
「あの、私は・・・」
ユミも自分の紹介をしようと口を開いた。
すると突然それにかぶせるようにジルが口を開く。
「ユミ・・だろ?」

ユミは硬直した。そしてこの人の前では、平常心を保つなど無理な事だとまざまざと思い知らされるのだった。
スポンサーサイト
別窓 | story line | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
<<第玖輪 透かされし心 | FINAL FANTASY XI Note of Dark | 第漆輪 小さな救世主>>
 
 
 
 
 
 
  管理者だけに閲覧
 

トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら
| FINAL FANTASY XI Note of Dark |

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。