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第漆輪 小さな救世主
2008-05-27 Tue 23:20
「あれ・・・」
無我夢中で鉱山区に走り込んだユミは完全に目標を見失っていた。
(どこにいったんだろう)
辺りを見渡せどどこにも人の姿はない。
日が落ちかけているせいもあって視界は良くなかったが、それにしても人の姿がなさ過ぎる。
物音一つしない静けさだった。
ユミはようやく自分がどこに入り込んでしまったのか気が付いた。
鉱山区の傍らにあるガルカ族の居住区。
共にバストゥークを築き上げたヒューム族を嫌い、外界との接触を避けてきた者
達の集まり。
他の区に住むガルカ族でさえも近寄る事を嫌がる場所だった。
ユミは次第に肌を刺すような寒気に襲われた。

カラン―

どこからともなく何かを引きずるような音がする。
何者かが、徐々にユミに近寄る気配を感じた。
(!)
ユミは息を飲んだ。
鼓動が高なり呼吸が荒くなる。

カラン、カラン。

その音は徐々に大きくなった。
ユミはその場に座り込み恐怖のあまり動けなくなってしまった。
(誰か… 助けて)
その時だ。その音のする方向から地を這うような低い声が聞こえてきた。
「我ら気高きガルカ一族の領地を侵すのは何者か」
そう発するとその声の主はさらにユミに近づいた。
そしてその姿があらわになる。
背丈はユミの5倍いや6倍以上。
まるでロンフォールの獣人オークを思わせるかのような巨体。
顔は髭で覆われはっきりとは見えないが、その瞳は殺気だっているようだった。
右手に大きなつるはしのようなものを持ち、今にも殴りかかるような勢いだ。
ユミはガタガタと震え上がり声も出せない。
「応えよ娘。我らに何を望む。これ以上何を奪う。」
ガルカはさらに近づく。
ユミはもう成す術を持たない。もう、このまま終わってしまうのかもしれない。
そう諦めかけた時だった。

「おーおー、ちょっと可哀想なんでないかい?」

頭上から誰かの声が聞こえた。
ユミもガルカも同時に空を見上げる。
ガルカ族の家の屋根の上。小さな頭がひょこっとこちらを覗き込んでいた。
「な、何者だ?!」
ガルガが一声する。
「何者って言われてもねぇ。俺はただの通りすがり・・・」
そういうと声の主は立ち上がり屋根の上から・・・飛んだ。
(え・・・!)
ユミが心の中で驚きの声を上げる。
刹那の時間空に飛んだその人物は見事地面に降り立つ・・・はずだった。
思いのほか着地点が悪く、家の脇に並べてある樽へと突っ込む。
ガラガラガラ、ガシャーン。
鉱山区の一角に派手な音が鳴り響いた。
「いててて・・・」
バラバラに壊れた樽の中から現れたのは、小さなタルタル族の男だった。
「あ!」
ユミが思わず声を上げた。
その男が黒いローブを着ていたからだ。
男は立ち上がり、服についた埃を振り払いながらユミの前に立った。
そしてガルカに言う。
「えーっと、・・・なんだっけ?」
「貴様・・・!」
とぼけた表情をするタルタルの男にガルカが怒りをあらわにする。
慌ててタルタルの男が弁解をする。
「あぁ、ごめんごめん。そう怒りなさんなって」
その弁解が逆効果だった。
ガルカは歯を剥き出しにしてつるはしを振り上げた。
「きゃあ!」
ユミは思わず目を閉じた。
しかしその後に続く音はなく何故かシーンと静まり返っている。
(?)
ユミは恐る恐る目を開けた。
「うそ・・・」
そこには不思議な光景が広がっていた。
手をガルカにかざすタルタルの男。その先でつるはしを振りかざした体制のまま、目を白目にさせて硬直しているガルカ。
何があったのか・・・ユミには理解する方法が見当たらなかった。
タルタルの男が手を下ろすとガルカがその場にドサっと倒れこんだ。
「すごい・・・」
ユミが感動の声を漏らしているのもつかの間。
まるでそれを見ていたかのように居住区全体の家々の灯りが灯った。
そして四方から怒り狂った呻き声のものが聞こえてくる。
「おっと、さすがにまずいかな~」
タルタルの男がひょうひょうと言う。
「まずいって、あのぉ」
ユミはどんどん不安になっていく。
それを察したのかタルタルの男がユミの方を振り返り、手を差し伸べてきた。
「立てるか?」
「あ、はい」
その手に引かれユミは立ち上がった。
「皆さんお怒りのようなんで、ずらかるとしますかね」
ユミはその答えに無条件で賛成した。
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第陸輪 すれ違う鍵
2006-01-08 Sun 15:40
「今年の春は、花柄とパステル色が流行りなので、お客様は花柄のワンピースなどお似合いになられるかと思いますよ。」
「はぁ。」
ニコニコ笑顔の店員の接客責めにあい、ユミは曖昧な返事を繰り返していた。
店員の話は尚続く。
「アイテムは春物のブーツ、ハンドウォーマー、タイツ――。」
「ユミ~これなんかいいんじゃない~?」
店員の話を遮るように、少し離れた棚の影からキヨが大声をあげた。
「あ、ちょっ、ごめんなさい!」
ユミは慌てて店員に軽く頭を下げると、キヨの方へと急ぎ足で向かった。
(助かった…。)
内心そう思いながら、目をキラキラさせているキヨを見つける。
一枚のワンピースを両手で広げ、満面に笑みを浮かべていた。
「わ、私に似合うかな?」
確かに可愛いが、少し派手すぎないか…。本当はそう言いたかったが、目の前で楽しそうにしているキヨを見ると、とても言い出せなかった。
色は白。向かって右肩から左下のスカートにかけて緩やかなカーブを描き、花の模様が一線を辿るようにして描かれている。
腰あたりから三線に別れ、一線はスカートのちょうど真ん中あたり、もう一線は右端へと延びていた。
何の花だろうか? どこか異国を思わせるような種類の花だ。
「ほら、見て見て~」
キヨがワンピースをくるりと回転させた。
「うわぁ。」
誰がこんなデザインをしたのだろうか。
表の肩の花とは反対の方向から、右端のスカートに向かって緩やかなカーブを描き、ファスナーがついている。
ファスナーをすべてはずすと、見事に服が…。
「すごいねこれ…」
「ね~すごいよねぇ♪」
キヨは相変わらず目をキラキラさせている。
その目がまるで「着てほしい」と訴えているようだ。
「あとね~」
ワンピースをユミに押しつけると、棚から別の服を取り出した。
春色のフードつきショートジャケット。
こちらも斬新なデザインでワンピースと組み合わせると見事にマッチしている。
「この組み合わせでこのブーツなら完璧♪」
どこから持ってきたのか。
いつの間にか足元にウェスタン風のブーツが置かれていた。
よほどユミにこのチョイスで着てほしいのだろう。
必死になって勧めるキヨを見て、ユミは思わずクスクスと笑ってしまった。
「にゃ? …だ、駄目?」
「ううん、すごく可愛い!ありがとうキヨ♪」
ユミはようやく心から笑顔になれた気がした。
(よかった。いつものユミに戻った…)
それを見て、キヨはホッと胸をなでおろしていた。



「ありがとうございました~。」
キヨのチョイスと自分のチョイスを両手いっぱいに抱え、ユミとキヨは店を出た。
「ちょっと買いすぎちゃったかな。」
そう言いながらキヨが少し苦笑いをしている。
「気にしない♪たまには、ね?」
「うん♪」
互いに笑顔を交わし、二人はしばし雑談に明け暮れた。
時間を忘れるほどに、何らたわいのない話題に夢中になった。
キヨは、本当はユミが言い出せない事を何より聞きたかったが、今は目の前で無邪気に話すユミがいれば、それで十分だと思っていた。
いつかきっと、話してくれると信じて…。
――どれほどの時が流れたであろう。そろそろ帰ろうと、二人は商業区の店舗街を歩き出した。
天の太陽は一時の眠りへと向かい、片隅で月が自分の出番を今か今かと待っている。
春先の風もこの時間になると少し冷たくて、二人の足を急かした。
しかし突然、キヨが足を止めた。
「キヨ?」
ユミが振り返るとキヨは道端の木を見上げている。
「ねぇねぇ、あれなんだろ~?」
キヨは"あれ"を見上げかかとを上げ下げしている。
「ん~?」
ユミも一緒になって木を見上げた。
「あー、ん~猫の…ぬいぐるみ?」
ユミにはそう見えた。
全身真っ黒で頭に小さなデブモーグリをのせている。
枝にぐったりと、もたれかかるようにしてひっかかっていた。
「なんであんなところに…?」
「さぁ?」
二人は顔を見合わせ、同時に首を傾げた。
その瞬間、突然強い風が吹き、二人は口を揃えて「帰ろう」とつぶやいた。



――視界は誰かの目線に変わる。
大工房へ通ずる道から噴水の広場へと歩を進め、やがてその視界に止むことなく噴き出す噴水が映る。
何かを探すように辺りを見渡し、そこにそれがないとわかると再び歩き出した。
噴水の脇を通り、店舗街へと続く階段を降りる。
そこで二人の少女とすれ違った。




――(え!)
急ぎ足で家路を急ぐユミはふと立ち止まった。
たった今、すれ違った人物―――。
ユミは振り返り、その人物を目で追った。
(黒いローブ…の女?)
もうすでにその人物は鉱山区へと続く階段を降りきっていたが、間違いなく黒いローブを着ていた。
まさか――?
そう思った時には、ユミは既にその人物の後を追いかけていた。
そう、無意識に。
少し駆け足で階段を滑るように降りる。
それに驚いたキヨが大声で何かを言っている。
もう何を言っているのかもわからない。ユミは必死だった。
ただ、無意識にもその意味は理解できたらしく、ユミは振り返り「ごめん!先に帰ってて!」と返していた。
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第伍輪 異なる同じ時間軸
2005-12-25 Sun 18:15
「魔法の普及は、多くの人間に幸せと災いをもたらしましたが、中でも最も喜んだのは、その頃旧大陸の北方で覇を唱えていたエルヴァーン族の国家―――。」
朝の騒動からしばしの時流れ、教卓でスタン先生がサンドリアの歴史について朗読していた。
『歴』と呼ばれるその授業は、スタン先生の担当教科であり、わかりやすいと生徒からも評判の良い授業である。
もちろん、当のユミもスタン先生の授業は好きなのだが、今日はまるで耳に入ってこない様子だった。
頬杖をつき、一人窓の外を見つめている。そこに何があるわけでもない。
ただ一点をぼーっと見つめ、時より小さな溜め息をこぼしていた。
(はぁ…。)
また一つ、やりきれない気持ちの塊が、重い溜め息としてこぼれ落ちた。
考えることはいつも同じ。限られた言葉を何度も頭に浮かべて、それを自分なりに解釈しようとするも、結局のところ何も解決しない。
そんな一連のサイクルを、ユミは何度も繰り返していた。
そして今再び思うは、黒い炎のようなものに包まれたあの謎の女。
その実体は大人だったのか子供だったのか、またどの種族だったのか、身を包む黒い炎に気を取られ、まったくわからなかった。
唯一わかったのは、冷たい声は女のものだという事。
一体何者なのか―――。
ユミはゆっくり目を閉じ、女をもう一度思い浮かべてみた。
頭を真っ白にし、そのスクリーンの上に彼女を浮かべる。
あの時と同じように、ユミを見下ろすような角度で…。
すると、突然自身の意識が思わぬ光景を見せた。
真っ白なスクリーンの上にいる女が向きを変え、まるで誰かと話しているような姿が見えた。
何を言っているかはわからない。だが、確実にその先には「相手」が存在している。
誰なのか? ―――その答えはすぐに出た。
女を中心に映していた視点は、女の向いている方向へと少し移動し、その先のビジョンをうっすらと映し出した。
あれは―――。

同じだった。その先に現れた人物は、女と同じ格好をしていた。
黒いローブに、目深に被ったフード。
しかし、見て取れる違いがいくつかある。
黒い炎。その人物にはそれらしきものが見えない。はっきりとではないが全身がわかる。
そしてその全身から見て取れる体格。黒いローブのせいで男女の区別はつかないが、体の作りからしてヒューム族かミスラ族の大人のように見えた。
視線はやや下を向き、女を見下ろすような角度で話している。
炎に包まれ全身は見えないものの、もしかしたら女は子供―もしくはタルタル族なのかもしれない。
何故こんな光景が見えているのか、ユミにはまったくわからなかったが、今はそんな事よりも二人の会話の内容が気になって仕方がなかった。
ユミは無意識ながらもなんとか二人の会話を聞こうと集中した。それが本当に自分自身の力なのか定かではないが、少しだけ二人の会話が耳に届いた。
「――間違いではない――」
炎のない人物がそう言っている。いや、そう言っているように聞こえた。
その声は、女の声のように聞こえるが、あまりに小さすぎて判別できない。
「まだ決断を下すのは早い。」
あの女の声だ。背筋も凍るような冷めた声。
ユミはその声だけは、しっかりと聞き取ることができた。
決断を下すとは、一体何を意味するのか?
それは解決への糸口ではなく、更なる疑問としてユミの中に残った。
二人の会話はまだ続いている。
ユミは真相が知りたくて、更に意識を強めた。
これは夢ではない。根拠のない意志だったが、何故かそう感じる。
ほらだって、自分の体は今教室の椅子の上にあって、手に力を入れれば―――。

ユミはふと誰かに揺すられていることに気づいた。
「(ちょっとユミ!)」
(え?)
そうだ。今は授業中だったんだ。
ユミは一瞬にして我に返った。そして何を思ったか突然立ち上がった。
「はい!」
時は止まる。教室にいた誰もが振り返り、ユミを驚きの眼差しで見つめた。
スタン先生も読んでいた本から目を離し、疑惑の目でユミを見ている。
「…質問ですか?。」
そう言われ、ユミはやっと今の状況を把握することができた。
「あ…いえ、何でもないです。」
ユミは真っ赤になり、慌てて席に着いた。
「(ユミ本当に大丈夫?何か変よ?)」
ユミを現実の世界へ引き戻したのはキヨだった。
『歴』の教科書で顔を隠し、スタン先生に見つからないようにユミに話しかけている。
「(…うん。大丈夫。)」
一拍遅れてユミは返事をした。変だと言われてしまうのも無理はない。
心此処に在らずとは、まさに今のユミの事だ。
大丈夫だと苦笑いをするユミの表情に、これっぽちも「大丈夫」の色など見えない。
キヨは心配で仕方がなかった。
あの手この手でユミを元気づけようとするが、笑ってくれるのも刹那の時。
こんな時自分に出来ることは、いつもユミが笑ってくれる「大袈裟な仕草」。
しかし、これほどにまで変化が見えないユミは本当に珍しかった。
いやむしろ、今までなかったかもしれない。
キヨは、次第に何も出来ない自分自身に苛立ちと無力さを感じ始めていた。
「(キヨ、本当にありがとう。)」
それに気づいたのか、ユミが精一杯の笑顔でキヨに言った。
キヨは思わず、その言葉と表情に涙しそうになった。
自分が一番つらいはずなのに…。理由はわからなかったが、ユミのその心遣いにキヨは強く胸を打たれた。
そして、意を決したように顔を持ち上げ、ユミに笑って見せた。
「(放課後、どこか遊びに行こっか♪)」
自分が落ち込んでいる場合ではない。まだやれる事はたくさんある。
「(うん。)」
強く心にそう思いながら。
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第肆輪 朝、誰もいない部屋
2005-12-11 Sun 10:08
カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋の一角を照らす。やわらかな風がその光をゆらゆらと動かしていた。
昨日の事を考えながらも、いつの間にか眠ってしまっていたユミは、鳥達のさえずりと共に目を覚ました。
「んん…。」
ゆっくりと体を起こし、まだうまく機能しない目をこすった。
はっきり開けていく視界の中、ユミは隣にモグがいない事に気がつく。
(あれ?)
あたりを見渡せどその姿はない。
ユミは自分の部屋を出て、キッチンへと歩いた。
綺麗に片づけられた机の上、ユミは一枚の置き紙を見つける。
(?)

―ユミへ
今日は少し早く出ます。もしかしたら出張になっちゃうかもしれないので夜は好きな物を食べて下さい。ごめんね。

そこまで読んで、ユミは無意識に眉をひそめた。
机の上に、ヴァナの硬貨が数枚置いてあるのに気づく。
これで買いなさいということだろう。
ユミは置き紙に目を戻した。続きがある。

―後、モグちゃんの事だけど、いつもの里帰りみたいだから、あんまり気にしないで。

「あ、そっか。」
ユミはふと思い出した。
モーグリ族は、いつも病気になったり精神的に不安定になると、その翌日忽然と故郷へ帰ってしまう。
おそらく、それがモーグリ族にとって最善の治療法であるには間違いないが、その真相や故郷の場所など、一度たりとも口にしたことがなかった。
数日経って家に戻って来る時には、やはりあの愛らしい声で「ご主人様、突然の留守ごめんなさいクポ。」などと言われてしまうと、何も言えなくなってしまうのである。
そして当のモグも、ナツミに仕えはじめてから何度か故郷に帰っていた。
ナツミはおそらく、今回もそういう事情だろうと思ったのであろう。
(本当にいつもの里帰りなのかな…?)
ユミだけは、その里帰りに何かひっかかるものを感じていた。
「はぁ…今日は独りか。」
自然とため息がこぼれる。
普段は決して広いとは言えない我が家も、今日はやけに広く感じた。
それは、独りきりという現実もさる事ながら、ユミは昨日の事が気になって仕方がなかった。
明日になったらお母さんに話そう。そう決めた矢先のことだったから…。

―コチ、コチ。
静止した時の中、ユミの耳には時計の秒針の音が聞こえた。
(時計?)
ユミはおもむろに時計に視線を向けた。
「あ"ぁぁ!!」
そして突然発狂すると、ユミはパニック状態に陥った。
その時計が告げたもの―。
「遅刻しちゃうぅぅぅ!」
そう、ユミはバストゥーク国校に通う一学生なのである。



―カランカラーン。カランカラーン。
建物中に広がる大きな鐘の音は、その一日の始まりを示していた。
「お、おはようございます!」
荒い呼吸で教室に滑り込む生徒が一人。バストゥークの国紋が胸に刺繍された藍色の制服と、同色の膝上丈のプリーツスカートを着こなし、左の手に鞄を持っている。
肩を上下に揺らし、ぜぇぜぇと息をつく。普段の位置から少し横にずらし髪を結んだユミだ。
しかし、既に時は遅く朝礼は始まっていた。
「おはようございますユミさん。遅刻ですよ?」
スタン先生はエルヴァーン族の男。
少し下げてかけた小さな眼鏡の奥に、鋭くユミを見つめる瞳がある。
「ご、ごめんなさい。」
ユミは慌てて謝ると、急々と自分の席に着いた。
(はぁ…。)
本日二度目のため息である。
「(おはようユミ。遅刻なんて珍しいね?)」
それに気づいた隣の席の子が、ひそひそと声をかけてきた。
ユミははっとして横を向く。
声をかけてきたのはミスラ族の女。大きな猫耳に美しい毛並みの、いわば猫女だ。
名をキヨという。
「(あ、おはようキヨ。ちょっと色々あってね…。)」
「(色々ぉ?)」
キヨは耳をピンッとさせた。
いつでもどうぞ。まさにそう言わんばかりだ。
キヨとユミは幼い頃からの親友で、いつもお互いの相談にのってきた仲である。
家庭、学校、勉強に恋愛まで。ジャンルを問わず、全てを話せる相手だった。
そして、このキヨのポーズはお決まりで、ユミは今まで何でも話してきた。
「(えと…。)」
しかし、今回ばかりは例外である。
あまりにも現実からかけ離れた話だ。
世界の終わり。闇の契約。闇の使い。謎の女。
どれをとって話そうと、まったく伝わる自信がない。
そう、まだ自分自身確信しきれていない部分が多すぎる。
「(…ありゃ?)」
キヨは黙り込んでしまったユミを見て、不思議な顔をした。
「(ごめん。今回のはまだ、整理できてないや…。)」
ユミは俯いて小さくなってしまった。
それを見て、キヨが優しく微笑む。
「(そっか。話したくなったら言ってね。)」
そう言って、教卓にいるスタン先生の方を向き直した。
(うん。ありがとう。)
心の中で、ユミは精一杯のお礼をした。



―カランカラーン。カランカラーン。
国校の鐘の音はバストゥーク全体に広がっていた。空を抜けるようにどこまでも美しく…。
その鐘が鳴り止むか否かの時、一人のタルタル族の男がバストゥークの地へと訪れていた。
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第参輪 ザルカバード
2005-11-20 Sun 08:07
時同じく、地はVana'Dielの最北端、ザルカバード。
黒く落ちた空の下、その大地は全て白一色に染まっていた。
視界はゼロ。激しく振りつける吹雪が行く手を阻む、そうまさにそこは極寒の地だった。
そんな地で、三人の男達が小さな丘の頂で"何か"を調査していた。
「やはりそうだ。」
紫の鎧に身を包んだヒューム族の男が"何か"を見つめて言った。
その瞳は凛々しく、遥か東方を思わせる髷のような髪型をしている。
背には大きな槍を。そしてすぐ側には小さな飛竜が飛んでいた。
彼の名前はリム。
「…。」
その言葉にリムの横からガルカ族の男が顔を覗かせた。
一言で言ってしまえば大男で、黒っぽい胴衣を身にまとい、腰に爪具を(ナックル)を下げている。
リムと同様その"何か"を見つめているが、表情は険しく、まるで獣のよう…。
しかし、その瞳の奥には優しさを帯び、まるで全てを悟っているようだった。
名を、イルキと言う。
「国は気づいているのでしょうか?」
そしてもう一人。
純白の鎧に身を包み、腰に青い剣、左腕に金色の盾を持ったエルヴァーン族の男。
尖った耳と、この白銀の世界でも美しくなびく銀の髪。
その顔立ちはまさに威風堂々。ただならぬ「聖」のオーラを発していた。
彼の名は、ティネス。
「私は、これに似た現象を街の中でも見ました。しかし、あれだけの人数がいたにも限らず、誰一人として気づいていなかった…。」
「…つまり?」
「…おそらく、国が動く程の情報は愚か、国の人間さえもこの事態に気づいていないかと。」
リムがそう言うと、イルキとティネスは少し難しい顔をして見せた。
―何故、我々には見えるのか?―
二人ともそう考えていた。
今、自分達の目の前に広がっているその現象。
足元は間違いなく降り積もった雪なのに、寸尺前には黒い靄のようなものが渦を巻き、その雪ごと大地を飲み込もうとしているようだった。
「しかし、何故リムさんはその現象がここにもあると…?」
ティネスがリムに訪ねた。
「先の大戦…。」
リムは空を仰ぐ。
―今より20年程前に起こった獣人との大大戦。
各国で展開されていた争いの決着は、このザルカバードでつけられたとされていた。
「なるほど…。もし、その大戦が関係しているとなると、これは我々だけの力ではどうにもなりませんね。」
ティネスの言葉にリムは頷いた。
しばらく沈黙が続き、三人はただ、その現象を見つめた。
不定期な波を放ち、ゆらゆらと黒い渦は回る。
長い間見ていると、こっちまで吸い込まれそうだ。
思わず目を閉じたリムは、一息置いて二人に言った。
「一度戻りましょう。相手にされないかもしれませんが国に報告を。」
「えぇ。」
二人は頷いた。
「!」
その時、イルキが何かに異常な反応を示した。
「…どうしました?」
リムが問いたが、イルキは背後を振り返ると、遠くを睨みつけたまま黙り込んでしまった。
その空気を感じとるように、大気の流れが変わり、吹雪がおさまっていく。
やがて、視界が明け始めるとイルキが小さく言った。
「囲まれている。」
「!?」
二人も異変に気づき、とっさに武器に手を添えた。
晴れていく全景。そこには、多数のアンデッド族や一つ目のアーリマン族が、少しずつ三者に歩み寄る姿があった。
黒い渦の端から端まで少しの隙間もなく集結している。おぞましい殺気だ。
三人はジリジリと後ずさる。もう後がない。
この極寒の地でも、手のひらに嫌な汗が浮かぶのがわかった。
リムが唾を飲み、二人をチラリと見る。
「いけますか?」
「えぇ、もちろん。」
イルキとティネスは少しだけ笑みを浮かべた。リムもそれに応える。
「…では!」
三者は武器を構え、一斉に切りかかった。




夜になり、バストゥークの空には赤い月が登っていた。
それを窓辺から見上げながら、ユミは一人今日の事を思い返していた。
モグに起きた異変。街に突如現れた闇の使い。
夢と同じ事を言ったあの女の人…。そして、その全てに誰も気づいていないこと

結局その事を母にも言い出せぬまま、ユミは一人思い悩んでいた。
(本当に、この世界おわっちゃうのかな…。)
ユミはベッドで眠るモグを見つめ、心の中でそう呟いた。
モグが突然告げた世界の終わり。
まだ半信半疑ながらも、このVana'Dielに何か不吉な事が起きていると、ユミは感じ始めていた。
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